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モータのカスタマイズ事例のご紹介(1)

真空で使うモータとは?用途例とメリットを解説

真空環境でモータが使われていることをご存じでしょうか。
真空環境では,大気中では実現できない特殊な加工・製造がおこなえるため,地上でも真空環境の中でモータが使われているケースがたくさんあります。

また,今後,宇宙ビジネスが急速に拡大すると予想されており,新しい仕事の創出,新しいイノベーションの促進,そして私たちの生活を向上させる新しい製品やサービスの開発にともない,宇宙でモータが活躍する場も増えていくことが見込まれます。

しかし,真空環境は,私たちが過ごしている環境とはまったく異なります。

今回は真空環境の種類,モータを使用する用途や注意点,当社でのカスタマイズ事例についてもご紹介します。

1. 真空とは?

真空とは,通常の大気圧より低い圧力の気体で満たされた空間の状態をいいます。真空は,科学,工学,医療など,多くの分野で重要な役割を果たしています。

科学分野では,原子や分子を研究する際に使用されます。
工学分野では,真空は半導体や太陽電池などの材料の製造,電子部品の製造に使用されます。
医療分野では,真空は生体組織の研究,血液や組織の保存,手術器具の滅菌などに使用されています。

真空の種類

絶対真空

真空は,物理学における概念としても重要です。古典論における絶対真空は,空間に分子がまったくない状態です。宇宙空間は真空と言われていますが,実際には宇宙にも微量に分子が存在しているため,あくまでも仮想的な状態で,実在しない空間です。

負圧

負圧は,地球上の標準的な大気圧(海面付近=1気圧)より気圧が低い状態です。JIS(日本工業規格)では,低真空・中真空・高真空・超高真空の4段階を定義しています。

  • 低真空:真空パックとして使用され,真空管や電子部品の製造などに使用されます。
  • 中真空:半導体や太陽電池などの材料の製造などに使用されています。
  • 高真空:レーザーや電子顕微鏡などのデバイスの製造に使用されます。
  • 超高真空:原子や分子の研究などに使用されます。

負圧

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2. 真空環境が求められる用途とは?

ここまで真空について説明してきましたが,この真空環境を生かした装置や宇宙空間で使われる装置にはモータが使われています。

例1:真空薄膜形成装置のケース

真空薄膜形成装置は,金属,セラミック,半導体,有機材料などの薄膜を形成するために使用されます。
薄膜は,半導体デバイス,太陽電池,ディスプレイ,光学デバイスなど,さまざまな用途で使用されています。

真空薄膜形成装置に真空環境が必要な理由は,薄膜の成長に必要な原子や分子の動きを妨げる空気分子を除去するためです。
真空環境では,気圧が低いため,原子や分子は互いに衝突する可能性が低くなります。これにより,原子や分子は目的の場所に付着しやすくなり,均一で高品質の薄膜を形成することができます。

真空薄膜形成装置の用途例

  • トランジスタ,ダイオード,コンデンサなどの半導体デバイス(性能向上,小型化のため)
  • 太陽電池(太陽光を電気に変換するため)
  • 液晶ディスプレイや有機ELなどのディスプレイ(画質向上,薄型化のため)
  • レーザー,光ファイバーなどの光学デバイス(性能向上,小型化のため)
  • 太陽電池,燃料電池,発光ダイオード(LED)などのエネルギーデバイス(性能向上・効率化のため)
  • 金属,セラミック,プラスチックなどの材料の保護コーティング(摩耗,腐食,紫外線から保護するため)
  • ガラス,プラスチック,金属などの材料の装飾コーティング(美しさ,耐久性,機能を付加するため)

例2:真空冶金装置のケース

真空冶金装置は,真空中で金属を溶解および凝固させるための装置です。

冶金装置に真空環境が必要な理由は,
「大気中の不純物を除去することで,金属の酸化や不純物の混入を抑制できる」
「真空中では,金属の凝固速度が速くなるため,結晶粒が細かく均一な金属製品を製造できる」
「凝固中に発生する気泡が小さくなり,金属の強度が向上し品質が上がる」
などのメリットがあるため
です。

真空冶金装置の用途例

  • 高品質の鋼の製造
  • 高温合金の製造
  • 半導体材料の製造
  • 磁性材料
  • 超伝導材料の製造

例3:加速器のケース

加速器とは「電子」や「陽子」などの粒子にエネルギーを与えて高速に加速する装置です。
加速器は,真空環境で動作する必要があります。これは,加速器内で粒子が空気中の分子と衝突すると,エネルギーを失ってしまうためです

真空環境では,粒子と空気中の分子の衝突を避けることができ,粒子を高速に加速することができます。
加速器は,物理学,化学,生物学,医学など,さまざまな分野で研究に利用されています。

また,医療診断や放射線治療にも利用されており,粒子線治療などで私たちの身近でも役立っています。

真空冶金装置の用途例

  • 物質の構造の研究
  • 新物質の開発
  • 医療診断
  • 放射線治療
  • 核融合研究

例4:宇宙空間でのモータの使用例

宇宙空間においてモータは,人工衛星や宇宙船の多くの機器の動作に使用されています。

宇宙空間での用途例

  • ロボットアーム:
    モータによって制御されており,宇宙船の外にある物体をつかんだり,放したりといった操作を遠隔からおこなうことができます。
  • アンテナ:
    人工衛星や宇宙船が地球や他の宇宙船と通信するために使用されます。人工衛星や宇宙船が地球や他の宇宙船と正しく通信できるようにモータを使って方向を合わせています。
  • 太陽電池アレイ:
    人工衛星や宇宙船に電力を供給するために使用されます。できるだけ多くの太陽光をキャッチできるように,太陽の方向に姿勢が向くようにモータで制御されています。
  • スラスター:
    人工衛星や宇宙船の軌道を制御するために使用される推進器です。これらの推進器はモータによって駆動されるノズルで構成されています。
    モータがノズルを駆動するとノズルから高圧のガスが噴出し,それによって人工衛星や宇宙船が推力を受けて加速します。
  • リアクションホイール:
    姿勢制御と軌道制御において重要な役割を果たし,モータによって回転する一連の車輪で構成されています。人工衛星や宇宙船は、正確な姿勢制御を必要とします。
    例えば、宇宙船が特定の方向を向く必要がある場合、リアクションホイールの一部を回転させることで、船体の回転運動を制御することができます。また、軌道上での微調整や特定の位置への移動にも使用されます。


これらは一例ですが,モータは宇宙船や人工衛星の運用に不可欠なデバイスです。過酷な環境下でも信頼性を保ちつつ精密な動作を実現し、ミッションの成功に欠かせない役割を果たします。

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3. 真空用モータを使うメリットは?

真空環境でモータを使い,対象物を動かす場合,以前は真空導入機(回転導入機)などを使いながら,外部にあるモータの動きを真空チャンバー(真空状態を保持する空間)の中に伝えていました。
しかし,真空導入機のスペースが大きく,場所を取るなどの課題がありました。

真空用モータであれば,真空環境内に直接設置して使うことができるため,真空導入機が不要となり,装置を小型化できます。

真空モータ

4. 真空でモータを使う場合の注意点

さて,真空条件下でのモータの使用における注意点について解説します。

温度上昇のリスク

モータの巻線に電気を流すことで,巻線の温度が上昇します。大気中であれば,空気の対流によって熱が逃げるのですが,空気がない真空中では温度上昇が大きくなります。そのために発熱対策が重要になります。

山洋電気の真空用ステッピングモータなら

  • 高温に耐える材質(200℃で連続使用可能)を使用しています。

アウトガス(放出ガス)の発生リスク

真空中では潤滑油や冷却油が揮発します。揮発した油が真空中に拡散すると,真空ポンプや真空チャンバーの表面に付着してしまい,性能の低下につながります。
また,潤滑油が蒸発すると,ベアリングやギアなどの部品の表面の潤滑が保てなくなります。

さらに,標準的なモータであれば,フランジやエンドブラケットは,ダイカスト(溶かした非鉄金属の合金を金型に高圧で注入して製品を成形する技術)で作られています。しかし,この方法では微細な空気が表面に残り,アウトガスの原因につながります。

山洋電気の真空用ステッピングモータなら

  • 標準的なモータに使用する防錆油は一切使っていません。
  • アウトガスの原因になる塗料や溶剤を用いた塗装をしていません。
  • 組み立て前の部品にはベイキング処理をしてアウトガスを極力飛ばし,洗浄をしてから組み立てています。
    (ベイキング処理は,表面を加熱することで水分を含むガス分子を離脱させる処理です。)
  • フランジやエンドブラケットは,ダイカストではなく,アルミの塊から削り出した切削品を使用しています。
  • ボールベアリングには揮発しづらい真空グリースを使用しています。

さらに,超高真空環境で使用される場合には,固体潤滑(ボールベアリングの内輪・外輪・ボールにコーティングのみ)のベアリングを使用するなどのカスタマイズをおこなっています。

モータの信頼性

真空環境下でのモータの故障は,深刻な問題を引き起こす場合があります。特に,修理や交換が困難な用途では非常に高い信頼性が求められます。

山洋電気の真空用ステッピングモータなら

  • 各部品の熱膨張係数を考慮し,例えば,ステータとフランジには,熱膨張係数が近い材料を使って、高温時でも組立精度が維持できるようにしています。

モータの効率

真空環境下でのモータは,熱が逃げにくいため,極力少ない電力で高いトルクを出すことが重要です。そのため,効率が高いモータを選ぶ必要があります

山洋電気の真空用ステッピングモータなら

  • 巻線の電流による損失を最小化する設計をしています。
  • モータコアに生じる損失を最小化する設計をしています。

5. 山洋電気の真空用ステッピングモータ(2相・5相)のご紹介

山洋電気の真空用ステッピングモータ

特長

  • 真空導入器を必要とせずに,真空環境内に直接入れて駆動できるステッピングモータです。
  • 高精度の位置決め制御が簡単にできる真空環境に適したアクチュエータです。
  • 低真空から超高真空まで,幅広い環境圧力に合わせてカスタマイズできます。
  • 耐熱温度は200℃です。

使用できる圧力の目安

使用できる圧力の目安

用途

半導体製造装置・電子顕微鏡・加速器・放射光分析装置・宇宙船ロボットアームなど

モータサイズ

□42 mm~□86 mm
フルカスタマイズでお客さまにあったモータをご提供できます。詳しくはぜひお問い合わせください。

カスタマイズ性

真空中での使用環境はお客さまごとに異なります。
山洋電気では,お客さまのご要望に応じてさまざまなカスタマイズを行うことができます。 是非ご相談ください。

山洋電気のカスタマイズ実績例:

  • 半導体ウエハ検査装置/ケーブル材質のカスタマイズ
  • 宇宙ステーション用ロボットアーム/フルカスタマイズ
  • 真空蒸着装置/ギア付きステッピングモータへのカスタマイズ
  • 電子顕微鏡/ギア付きステッピングモータへのカスタマイズ
  • 原子力関連装置/ステッピングモータへの放射線対応カスタマイズ
  • 液晶スパッタリング装置/ギア付きステッピングモータへのカスタマイズ など

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協力:山洋電気株式会社 サーボシステム事業部設計第一部 営業本部サーボシステムビジネスグループ

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