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コラム
山洋電気の歩みと技術革新(5)

工作機械の自動化へ-国産初の「サーボモータ」開発に成功

History
歴史

山洋電気は,冷却ファンやサーボシステム,ステッピングシステム,UPS,太陽光発電システム用パワーコンディショナなどの製造・販売で知られる電気機器メーカーです。1927年(昭和2年),黎明期の無線通信機分野におけるパイオニアとして創業した当社は,戦中・戦後の混乱と数多くの苦難を乗り越え,情熱と確固たる技術力を武器に,電気通信省の指定メーカー,そして回転機電源の主力メーカーへと,順調に復興を果たしていきました。そして,それまでの電気通信・電源分野に加え,工作機械という新たな分野に向けて,着実に布石を敷いていきます。

工作機械の“オートメーション化”に向けて-国産初の「サーボモータ」試作

「山洋電気さん,サーボモータの試作品を作ってみませんか?」 ―当社が電気試験所の担当者からこう言われたのは,電気通信・電源分野で確固たる地位を築きつつあった1952年(昭和27年)のことでした。通産省の電気試験所は当時,唯一の総合的な国立研究機関として,電子計算機の開発や制御技術,および制御用計算機の研究などに精力的に取り組んでおり,米国で開発された「サーボモータ」にも強い関心を抱いていました。

当時の米国はすでに“オートメーション”の時代に入っており,サーボモータは,産業用機械のあらゆる場面で自由自在なコントロールを実現し,はかり知れない需要があると注目されていました。 これに対して,わが国でオートメーション化や省力化が普及を始めるのは昭和30年代中頃からで,当時はまだサーボモータで制御する対象物自体が未成熟な状態で,サーボモータを駆動させるコンピュータやNC装置の国産技術も,ようやく黎明期を迎えた段階でした。

「将来モノになる」と期待するも…“早すぎた”技術に,需要なし?

電気試験所の依頼に対し,当社の技術陣も,「サーボモータってなんだろう?」という,ゼロの領域からの出発でした。 そして,苦労の末に小容量(1~100W)の2相タコジェネレータ付きACサーボモータの試作品を完成させます。この1号機はまだ多くの問題を抱えていましたが,わが国で初めて製作されたサーボモータでした。試作機を手にした社長の山本秀雄(当時)は感慨にふけるとともに,「これは将来モノになる」と試作研究の続行を指示しました。

とはいえ,当初は「この種の電動機の需要はさほどではない」(昭和28年度工業技術院年報)と言われるありさまで,まったく売上には貢献しませんでした。しかし徐々に工業用計器業界に需要が発生し,昭和30年代初期には,ある程度の生産ラインができるようになっていきます。

工程の合理化と省力化―“未来志向型”のサーボが,ついに世の中のニーズをつかむ

技術陣が完成度を高めようと試作研究を続ける一方,営業担当者は苦戦の連続でした。米国の計測器にサーボモータが内蔵されていたので,国内の計測器メーカーに売り込んでみましたが,「そんなに応答性の早いものをつけたらうちの計測器が壊れてしまうし,設計も変更しなければならない。迷惑な話だ。」と,取り付く島さえない状態でした。“未来志向型”の技術であるがゆえに,「早すぎたのか…」という思いが技術者・営業担当者の間に広がります。

そんなとき,思いもかけぬ話が鉄鋼業界から持ち込まれました。「企業合理化促進法」をきっかけに,工程の合理化と省力化を図っていた製鉄会社では,造塊時の電弧(アーク)加熱の際に電極を安定させる煩雑な操作が問題となっており,これを自動制御する方法について,新理研工業から問い合わせを受けたのです。

当社は,新理研工業と協力して「ホットトップ自動制御装置」を開発。この装置は,品質向上や歩留まり改善だけでなく遠隔操作も可能にし,大手製鉄会社や特殊鋼メーカーなどに次々と採用されました。サーボモータが初めて世の中のニーズをつかんだこの成果に,当社の技術者・営業担当者は,ともに歓喜の声をあげます。

国産初の「NC装置」へ搭載-時代の要請へ向けて,DCサーボモータを開発

サーボモータ国産化のパイオニアとして,強い使命感を持っていた当社は,工作機械のオートメーション化による需要を期待していましたが,小容量のAC2相サーボモータでは限界がありました。そこで,1955年(昭和30年)頃から70W~2kW程度のDCサーボモータの研究試作に着手しました。そして,これに富士通信機器製造(後の富士通)が注目することになります。

同社は,国産初の「NC装置」の実験機を完成させ,1956年(昭和31年)にタレットパンチプレスに連結して実演しました。この実験機に当社のDCサーボモータと位置検出器によるサーボ機構が使われたのです。 通産省の工業技術院機械試験所が,工作機械のオートメーション化の研究に着手したのは1956年(昭和31年)4月のことで,NC工作機がようやく実用化されたのも昭和30年代中頃からです。当社と富士通信機製造の試みが,いかに画期的であったかがうかがえます。

当時,機械試験所や富士通信機製造,牧野フライス,日立精機,三菱重工業,日立製作所,東芝など,主要企業の多くが工作機械のオートメーション化に関心を示していました。DCサーボモータの開発は時代の要請でもあり,研究が急がれました。

しかし,富士通信機製造はDCサーボモータの完成を待たずに,1959年(昭和34年)に独自の制御回路とサーボ機構を簡単化した油圧方式によるパルスモータ(ステップモータ)を開発。その後,当社は完成したDCサーボモータを機械試験所,三井精機,日立精工などに納入しましたが,ステップモータを組み込んだ富士通信機製造のNC装置が市場のシェアをおさえたため,長く雌伏を強いられることとなるのです。

公開日: 2017-01-05 00:00