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山洋電気の歩みと技術革新(9)

薄型冷却ファン「サンエース」を開発

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History
歴史

山洋電気は,冷却ファンやサーボシステム,ステッピングシステム,UPS,太陽光発電システム用パワーコンディショナなどの製造・販売で知られる電気機器メーカーです。1927年(昭和2年),黎明期の無線通信機用電源の分野におけるパイオニアとして創業した当社は,戦中・戦後の混乱を乗り越え,順調に復興を果たしました。そして高度経済成長期を迎えるなか,卓越した技術力を武器に,エレクトロニクス産業の躍進を支えていきます。

小型冷却ファンとの出会い,市場を独占した「サンエース」

1965年(昭和40年),当社の小型回転機分野を飛躍的に押し上げる役割を果たした新製品,「サンエース」が登場しました。その2年前,当社は業務提携関係にあった米国IMC社から超小型2相サーボモータを受注しました。その超精密加工技術を体得するために渡米した生産担当取締役の横沢新二郎(当時)は,IMC社が “ボクサーファン”のために新工場をつくるという話を聞きます。この製品は,熱に弱い半導体を冷却するためのファンでした。

当社の技術陣は,“ボクサーファン”のサンプルを元に独自の工夫やユーザーニーズを加え,試作開発に取り組みました。このとき,IMC社から学んだ超精密加工の技術が大きな力となりました。この薄型冷却ファンは,省電力で焼損の恐れもなく,信頼度がきわめて高いため,開発当初から電子機器の普及とともに需要が伸びることが確信されていました。 社内募集で決まった「サンエース」という名前は,わが国で初めて開発された冷却ファンとして“当社のエースとなれ”という期待が込められたものでした。

「サンエース」は発売とともに好調な売れ行きを示しました。わが国のエレクトロニクス各社は競うかのようにコンピュータ,通信機器,測定器,医療機器,事務機器などにこの製品を使用したため,昭和40年代のわが国の市場では事実上独占的な製品となりました。

電創業者山本秀雄の急逝,後進に遺した“専門メーカーのポリシー”

当社の創業者山本秀雄は,1967年(昭和42年)7月9日,自宅の温室で自慢の蘭を見回っているときに脳溢血で倒れ,遂に帰らぬ人となりました。電子工業の躍進期である大事なときでしたが,専門メーカーがいかに生きるべきかというポリシーを,後へ続く者へ明瞭に遺してくれました。それは次のようなものです。

第一に「こまわりがきくこと」。山本秀雄は折に触れ「戦艦では駄目だ。巡洋艦でなければならない。」と語っていました。当社は得意先から依頼があると困難な課題でも受けて立ち,それが「山洋電気に頼めばなんとかなる」という声となって返ってきたのです。

第二に「製品の多様性」。これは,少品種大量生産型では大企業に太刀打ちできないので,量産品以外の製品にも力を入れバランスをとるべき,ということです。

第三に「高度な技術の追求」。山本秀雄は「日本の水準を一歩抜く」「一歩,時流の先を行く」を口ぐせに,最先端の研究機関と絶えず接触を持ち,優秀な技術者の獲得に熱心でした。

第四は「経営面,財務面の堅実さ」。官公需が業績の柱だった当社はこの点には特に留意してきました。優良な財務体質は資金を得る場合に有利であり,研究開発への十分な投資も可能としました。

「マグネット型」DCサーボモータの誕生―FA化,OA化の進展に貢献

当社は昭和20年代の後半期に国産サーボモータを開発しましたが,あまりにも早すぎた技術のため,具体的な需要に結び付けるのに苦心しました。しかし昭和30年代中ごろからはコンピュータ各社への供給がはじまり,昭和40年代に入ると,部品としてのサーボモータだけでなく,ある程度装置化された自動制御機器を納入するようになりました。

コンピュータは,通産省(当時)の国産技術開発に対する強力なバックアップに各社が応えることにより,徐々に対象ユーザーの裾野を拡大していました。1968年(昭和43年)3月末の汎用コンピュータの稼働は1,937台(うち外国機は864台)でしたが,1971年(昭和46年)には9,482台(同2,771台)と急増。当社は,このようなコンピュータの普及と歩みをひとつにしながら,自動制御装置を製造するようになったのです。

磁気テープ装置ではリールモータ,キャプスタン駆動モータ,真空ブロアなど,また紙テープ読み取りさん孔装置ではテープワインダ,テープハンドラ,テープリーダーなどを,日本電気,富士通,日立製作所などのコンピュータメーカーに納品していました。

これらの自動制御装置にはAC(2相)サーボモータも使われましたが,リールモータなどの優れた応答性が求められる部分には,やはりDCサーボモータが不可欠でした。当社は1969年(昭和44年),巻線界磁型が主流のなか,「マグネット型」のDCサーボモータを開発しました。アルニコ・マグネットを使ったモータは高価で機械的・電気的ショックに弱いなどの欠点がありました。しかし技術の進歩により,高性能で安価なフェライト系の永久磁石が入手できるようになったので,ニーズはまだ電算機周辺などに限られていましたが,将来を見据えて開発,製品化に踏み切ったのです。

マグネット型の登場によって電子機器メーカー各社はDCサーボモータを導入しやすくなりました。また,昭和50年代のFA(ファクトリー・オートメーション),OA(オフィス・オートメーション)分野の進展にも大きく貢献することとなります。

*リールモータ:高速度で正転,急停止,逆転して磁気テープを巻きとる。特に応答性のよいDCサーボモータが必要。
*キャプスタン駆動モータ:磁気テープの送り装置。DCサーボモータのほか,同期電動機も使われる。
*真空ブロア:磁気テープの張力を一定に保つため,ターボ送風機で空気を抜き続けながらテープを引っ張る。
*テープワインダ:紙テープ巻きとり繰り出し装置。2相サーボモータを使用。
*テープハンドラ:紙テープ繰り出し装置。2相サーボモータを使用。
*テープリーダー:紙テープにパンチされた孔に光を当て,フォトダイオードで読みとって電気信号に交換する装置。

公開日: 2017-01-09 00:00