1966年(昭和41年),当社は米国IBM社から,ステップ角1.8度のハイブリッド型ステッピングモータのサンプル注文を受けました。技術陣は「天下のIBM社に技術力の高さを認めさせる絶好の機会」と意気込み,サンプルは20数回もIBM社へ送り届けられました。
当社は早くより将来必ずステッピングモータの需要が生じると判断し,1958年(昭和33年)にVR型*,1965年(昭和40年)にPM型*のステッピングモータを開発していましたが,わが国では需要が非常に限定されており,当社の年間生産台数もせいぜい数百台という状態でした。
1970年(昭和45年)3月,IBM社からはさらに,コンピュータ周辺装置のラインプリンタのドライブに使用する,ステップ角2度のHB型(ハイブリッド型)ステッピングモータのサンプル注文がありました。完成後,生産担当常務の横沢新二郎(当時)は,サンプルのデータとともに「サンエース」の超精密加工技術の資料を携え,IBM社を訪れました。
この訪米と「サンエース」での実績が功を奏し,HB型を月300台の納入ペースで計1,000台という注文を受けました。これは当時の受注量としては大きなものでした。また,高性能ステッピングモータの開発も当社でおこなうこととなり,来日したIBM社のエンジニアとともに総力を挙げた試作の結果,40台の量産サンプルの製作を依頼されました。
この量産サンプルはすべて米国IBM社の評価試験に合格し,東京都港区六本木にあるJPC(国際調達部)で正式契約することになりました。さらに,この1,000台とは別に,カードリーダーに使用するステップ角1.8度のVR型を4年間に16万5,000台受注しました。
*VR型ステッピングモータ:Variable Reluctance型。回転子として,歯車状の鉄心を使用する。
*PM型ステッピングモータ:Permanent Magnet型。回転子として,円周上に交互に着磁した磁性体を使用する。
IBM社からの受注に対し,当社は迅速に量産ラインを立ち上げ,品質維持や納期の確保に全力を尽くしました。そのために関連した営業活動も控え,製造現場への立ち入りも厳重にチェックしたほどです。若手エンジニアを中心に関係者は意気に燃えていました。
こうして,会社の命運をかけたステッピングモータは毎月順調に出荷され,4年間累計で16万5,000台を米国IBM社に納入しました。後に当社を訪れたIBM社の開発責任者は1台の不良もなかったことを語り,これを聞いた当社の関係者は感慨無量だったといいます。当社のステッピングモータは1971年(昭和46年)秋に月産1万台を達成し,ドル・ショック*の痛手から早々に立ち直ることができました。
当社のステッピングモータを搭載したIBM社製品が世界各国に出荷されると,国内のメーカーからも引き合いが殺到しました。半導体技術の進歩によって,各種産業機器の機構部は「ダイレクトドライブ」方式が主流となっており,1975年(昭和50年)には日本電気からバドミントンプリンタ(活字選択型シリアルプリンタ)用としてDCサーボモータ,ステッピングモータを受注し,以後,同社のプリンタ事業部の拡大に貢献しました。
IBM社へのステッピングモータの納入は海外でも注目を集め,欧州のコンピュータや工作機械のメーカーからも,ステッピングモータやサーボモータ,冷却ファンなどの引き合いが相次ぎました。当社はこの機会に欧州各国への製品輸出を積極化する方針を固め,代理店を開設することに。このとき代理店契約を結んだのはウォルター・ジョーンズ社(イギリス),エス・エフ・エム・アイ社(フランス),イネルコ・ベルギー社(ベルギー),ツンバッハ社(スイス)の各社でした。
*ドル・ショック:1971年(昭和46年)8月米大統領ニクソンによって発表された金・ドル交換一時停止,10%の輸入課徴金実施,賃金・物価の90日間凍結などの新経済政策により世界経済が深刻な衝撃を受けた事件。
公開日: 2017-01-10 00:00