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山洋電気の歩みと技術革新(11)

「大容量静止形インバータ」の開発

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History
歴史

山洋電気は,冷却ファンやサーボシステム,ステッピングシステム,UPS,太陽光発電システム用パワーコンディショナなどの製造・販売で知られる電気機器メーカーです。1927年(昭和2年),黎明期の無線通信機分野におけるパイオニアとして創業した当社は,戦中・戦後の混乱を経て,世界に認められた卓越した技術を武器に,高度経済成長期を迎えたわが国のエレクトロニクス産業を支えていきます。

「インバータ(直流―交流変換)」静止形化の動き

当社は1968年(昭和43年)以降,電電公社への「静止形コンバータ(直流-直流変換)」の納品を順調に続けていましたが,その一方で民需においては「インバータ(直流-交流変換)」の静止形化の動きがはじまっていました。

当社の「静止形インバータ」は,1965年(昭和40年)以来,東京証券会館の非常用電源のほか,東急電鉄目蒲線の車両用電源,国際電電地上中継局(茨城県)の人工衛星通信パラボラ・アンテナの制御用電源,九州電力大淀川発電所(宮崎県)の保安電源用として納入されました。

電電公社も1967年(昭和42年)に交流無停電電源装置の静止形化のため,静止形インバータの導入に踏み切りましたが,当社はすでに民需においてインバータの技術を蓄積していたので,この要請に迅速に応えることができました。1968年(昭和43年)5月,電電公社用第1号となる「3kVA静止形インバータ」を石川県・七尾局と羽咋(はくい)局に納入したのに続き,同年11月には東京・牛込局の短縮ダイヤル用の磁気ドラム用電源として「3kVA鉄共振形インバータ」を納入。

牛込局は,わが国で最初となる短縮ダイヤル方式交換を採用しており,磁気メモリ消失を防ぐための無停電電源装置を必要としていました。しかし,磁気ドラム用モータは起動時間が長いため,インバータの過負荷を防止する一方,モータ起動に必要な電力を供給するような出力特性の設定に苦心しました。とはいえ,これに続く“大容量静止形インバータ”開発の苦労を思えば,これらはまだウォーミングアップのようなものでした。

データ通信向け「大容量静止形インバータ」開発の苦闘

昭和30年代,コンピュータによる情報処理を採用する企業が増えることで,遠隔地へのデータ伝送という要望が出てきました。このため電電公社は,既存の通信回線を用いたデータ伝送装置を開発するとともに,1963年(昭和38年),電話回線の一部をデータ伝送用として公開し,のちにデータ通信サービスを開始しました。

電電公社はこうしたなかで,データ通信の情報処理用大型コンピュータの電源を,従来の無停電クレーマー方式から静止形インバータに転換する方針を固め,山洋電気に開発を打診。1969年(昭和44年)11月,当社は社内の技術者で開発プロジェクトチームを発足し,80kVA静止形インバータの社内試作に着手しました。

当社はそれまで小容量のものは開発してきましたが,データ通信用ともなれば2桁ちがう大容量であり,開発には大変な困難が予想されました。データ通信に使用する大型コンピュータに電力を供給する静止形インバータは,1台250kVAの大容量出力インバータを3~6台「並列冗長運転」するという,膨大な出力容量を持ったシステムを構築しなければなりません。

この最終目標に対して,試作に着手した80kVAでは十分なシステムではありませんでしたが,それまで最大5kVAまでしか作った経験がない技術陣にとっては大変なことでした。加えて,オンラインで使用するデータ通信用コンピュータに高信頼かつ無瞬断で電力を供給するために,インバータの多重化,負荷短絡時の制御技術などさまざまな技術が必要でした。大電流が発生する電気的・磁気的ノイズを抑制しつつインバータを異常なく作動させることは,とてつもない巨大技術への挑戦だったのです。

大容量静止形インバータの「並列冗長運転」に成功

技術陣は,大容量インバータを作るための基礎技術や並列冗長運転に必要な技術の習得を,開発と同時並行で進めました。また,工場のある長野県上田市の商用電源は60Hzだったので,50Hzの試験データを取るために,特別に625kVAの発電機を購入。さらに,実負荷試験を実施するために,大容量の負荷をつくる専用の装置を製作しました。工場内に大きな水槽をつくっておこなわれた水冷抵抗器でのヒートランニングは,主に夜間に実施されました。関係者は,出勤時に遠くから工場を眺め,湯気がもうもうと立ちこめるようすをみて「試験が順調におこなわれたな」と安心したそうです。

こうした苦労の末,試作開始から1年後の1970年(昭和45年)12月,プロジェクトチームは2台のモジュール・インバータの並列冗長運転に成功し,その結果を電電公社の技術局に報告しました。このとき報告を受けた責任者は思わず喜びの声をあげたといいます。というのも,電電公社ではすでに他社が試作した3台の60kVAのインバータ方式静止形電源を用いて調査試験をおこなっていましたが,数々の問題から並列冗長運転の技術を証明するデータを得ることはできず,大型インバータの導入に暗雲が垂れ込めていたのです。当社の試作成功によって,電電公社はようやく導入に自信を持つことができたのでした。

大容量静止形インバータの大量受注は,IBM社へのステッピングモータの大量納入に続いて大きな利益をもたらし,これにより当社は,1973年(昭和48年)10月の第一次オイルショックを契機とする苦境を切り抜けることができたのです。