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コラム
ものづくり最前線(2)

お客さまが“使ってよかった”という製品づくり。妥協せず,上を目指し続ける!

Interview
インタビュー

近年の情報処理・通信技術の発展にともない,情報機器や通信機器の高速・大容量化が進み,機器内部の発熱も増加しています。冷却ファンには,高密度環境下でも優れた冷却性能が得られるよう高静圧化の要求が増えています。
今回は,このような市場の要求に応えるため,高静圧な二重反転ファン「San Ace 80」9CRAタイプを開発したクーリング設計チームにお話を伺いました。
  • 設計部
    小河原 俊樹

  • 設計部
    中村 俊之

  • 設計部
    村松 陽

  • 設計部
    稲田 直哉

  • 設計部
    西川 修

  • 画面左から,クーリングシステム事業部設計部 村松 陽(むらまつ よう),小河原 俊樹(おがわら としき),稲田 直哉(いなだ なおや),中村 俊之(なかむら としゆき),西川 修(にしかわ おさむ)

    二重反転ファン「San Ace 80」9CRAタイプの開発の経緯を教えてください。

    中村

    もともとお客さまより,80mm角の製品で静圧が高いファンが欲しいという要望がありました。
    静圧が欲しいときには,DCファンを直列に並べて使ったり,当社のラインアップのなかでは二重反転ファンを使用することで圧力を出すことができますが,お客さまの必要な風量・静圧には届かないということで,新しく開発しました。

    開発をするうえで苦労した点はありましたか?

    稲田

    二重反転ファンは,前後の羽根の組み合わせを変えるだけで性能がだいぶ変わってきてしまうので,組み合わせを決めるのに時間が掛かりました。200回くらい組み合わせを変えましたね。

    中村

    まず,どのくらいの回転数で回さないと圧力が発生しないとか,風量がでないとか,最初の段階では今までの経験からある程度決めて,その結果を元に色々と修正していきます。風量カーブを整えたり,騒音をさげたりするためにフレームを何個も作ります。

    実際にフレームを作ってくらべるんですね。想定外のことが起こったりするんですか?

    小河原

    想定外だったのは,静圧を従来品の倍にするのにモータパワーが足りなかったことですね。羽根とか構造は決まったけど,回路がもたないとか,信頼性のマージンを確保するためにもっと回転数を下げなきゃいけないとか,駆動方法も従来の方法を変えなきゃいけないとかがありました。最終的には回路損失のぎりぎりのところを選択してなんとか完成にこぎつけました。

    中村

    この製品は,従来製品80mm角80mm厚二重反転ファンの2倍の静圧を出すために,同じ80mm角の高回転製品80mm角38mm厚の「San Ace 80」9GVファンをベースにして,回転数をさらに2割程度,12,000回転まで上げているんですけど,高回転で圧力が高いと製品の寿命に影響します。従来の製品のままだと限界に近いということで,構造をもっと変えて,高回転高静圧に耐えられるようにしています。

    小河原

    耐久性を上げるために,軸受も従来品とは異なるものを使っています。

    中村

    その関係もあって,従来より回路スペースが減ってしまい,限られたスペースでこの電流に耐えられるものを作らなければいけないということで,最後まで回路設計は苦労しました。

    小河原

    回路設計からいうと,大きな基板のほうが電子部品をたくさん搭載できるので大きくしてほしい。でも構造設計からいうと,外枠が決まっているので羽根は大きくとったほうがいい,という課題を両立させたのがこの製品です。回路設計ががんばって,部品も吟味して完成したんだよね。

    村松

    苦労しましたね。回転数2割というのはたかが2割と思われますが,それを電流値に換算してみると,2倍以上にもなります。小さいクラスのモータならともかく,もともと10,000回転くらいしていて,3Aくらいの電流が流れるものだと,7Aくらいの電流が流れるようになるので,その辺の対策というのが大変でしたね。
    ただ,回転数が2割だったら,軸受けにかかる力も2割,ということではないので構造設計も苦労したと思います。

    二重反転ファン「San Ace 80」9CRAタイプのPRポイントはなんでしょうか?

    小河原

    動作インピーダンスでの性能重視のファンを作ろうということで開発しました。ストレージや情報機器や通信機器など高密度な装置は,より高静圧が必要になるだろうと想定して,目標設定をしています。
    そのため,風量重視の装置に使われると他社より性能が悪いという評価を受けることはあります。みなさん,仕様をぱっと見て最大風量のところに目がいくんですよ。最大風量が多いほうが冷えると思ってるんですね。

    中村

    実際は風速で冷えるので,風量で冷えるというのは正しいのですが,システムインピーダンスが高い場合は最大風量は出ないので実際は冷えない。静圧の高いものを使っていただいたほうが最大風量が低くても適しています。

    ■風量-静圧特性例(従来品との比較)

    最後に,仕事への思いを聞かせてください。

    稲田

    そうですね。目標に近づいていくのが嬉しくて“あと少し”いう気持ちでやっています。目標は,はじめは実現できるのかなと思うのですが(笑)
    最初から達成できる目標なら他の会社もできるので,これくらいやらないといけないということだと思います。それに,今までの経験をつぎこんでやっています。
    目標って風量とか静圧を共に満たす必要があって,両立していくのが難しい。特性を満たせたけど,音がうるさかったとか。やっていくうちに難しさに気づくこともあります。
    担当者自身が妥協するようになったら,それ以上良くならないと思います。上を目指し続けないと。

    村松

    日ごろの思いは,“安全に”品質重視ですね。
    回路が壊れると致命的に壊れてしまうので,危ないところを残さないというのを日ごろから心がけています。検証も何回もやり直しています。
    なるべく安全にかつコストを考えて,壊れるような問題を起こさないようにと気をつけています。お客さまによって制御方法が違うはずなので,どんなものがきても壊れないようにしています。

    中村

    私は,いい製品を作りたい。技術的に他のメーカーに負けたくないので,お金をかけて作れるのならそういう方法も研究しながらやりたいという思いがあります。実際は,最終的にはお客様さまに使っていただくために安くすることも考えるんですけど。作るからには,こういったアプリケーションでは特性が良いという,性能の特化した超ハイエンドなものづくりをしたいと考えています。

    西川

    お客さまに使っていただいて満足してもらえる,喜んでもらえるものが作れればいいなと思っています。

    小河原

    最終的にはお客さまが山洋電気の製品を使って本当に良かった,という製品作りをしています。今後の動きとしては,用途別ですね。どういうお客さまが何を求めているのか,ということをさらに把握して製品開発をおこなっていきたいと思います。
    ひとつのファンを作ってどこに持っていっても売れるという時代は終わって,電力重視とか,風量重視とか,静圧重視とか用途別ということが必要ではないかと思います。ファンはどれを入れても冷えるからいいや,という風潮がありますが,それはちょっと前の考えかなと思って新しいことに取り組んでいます。

    公開日: 2018-01-02 00:00