
デジタルサイネージは,屋外・店頭・公共施設・交通機関など,あらゆる場所でネットワークに接続したディスプレイなどの電子表示機を使って情報発信するシステムです。ポスターや看板のように交換する必要がなく,情報をタイムリーかつ低コストで訴求できる広告媒体としても,近年その需要を急拡大しています。ディスプレイなどハードの低廉化やコンテンツ制作・配信業者の増加も普及を後押しし,国内市場規模は2010年の938億円から,2016年には1兆2,634億円にいたると見込まれています(*)。
しかし,このように注目される一方で,2011年3月11日の東日本大震災以降は,節電対策や自粛ムードから広告用ディスプレイが消灯されるケースが相次ぎました。こうした背景から,デジタルサイネージには,省エネ性能に優れた製品が強く求められています。
(*株式会社シード・プランニング調べ)
デジタルAV機器などの開発・製造・販売,およびOEMを手掛けるG社。主力製品のひとつであるデジタルサイネージは,ディスプレイタイプを中心に屋内用小型モデルから屋外用の大型モデルまで豊富なラインアップを展開しており,いち早くデジタル広告市場に参入したことで順調にシェアを伸ばしてきました。
しかし,昨今の電力供給不足への不安や節電対策の広がりを受けて,大型ディスプレイなどの広告設備には強く省エネルギー対策が求められるようになっています。こうした状況から,同社でも市場ニーズに応えるべく,“消費電力の低減”を開発のポイントとして,激化するデジタルサイネージ市場での生き残りをかけて次期モデルの開発に乗り出しました。ユーザー側からすると,消費電力を抑えることは節電対策だけでなく,電気料金の削減というメリットにもつながります。
まず,G社では装置の構成部品の見直しをおこなうことにしました。そのなかで,比較的消費電力の大きい冷却ファンについても,重点見直し部品のひとつとして検討をおこなうことになりました。同社設計開発チーム・マネージャーのM氏はこう語ります。
「ファン1台あたりの消費電力量は決して大きくはありませんが,当社主力製品の70インチ型デジタルサイネージには,合計で12個のファンが搭載されており,全体としてみるとかなりのインパクトが出るのではないかと期待しました。」
とはいえ,冷却ファンはCPUや電源の熱暴走による装置不具合・故障を防ぐ重要なパーツであり,冷却性能を犠牲にするわけにはいきません。加えて,デジタルサイネージは屋内や店頭に設置されるケースも多く,装置の“低騒音化”も求められています。装置の性能・品質を維持しつつ,省エネおよび低騒音化を実現しなければならないという難しい課題解決に行き詰りを感じたM氏は,現行ファンの供給メーカーにこうした問題を相談しましたが…
「現行ファンメーカーの営業に相談したのですが,レスポンスが遅いうえに,結局,何パターンかの風量-静圧特性グラフを送ってきただけでした。それまでにも,量産品にもかかわらず発注から納品までに数ヶ月を要するなど,常日頃から対応の遅さや不親切さに不満を感じていたこともあり,メーカーの変更を前提に冷却ファンの検討をはじめました。」(M氏)