企業が扱うデータ量が増加の一途をたどるなか,サーバやストレージといった情報通信関連機器は,CPUなどの高性能化と急速な小型化が進んでいます。これは一方で発熱による暴走や故障などのリスクを高め,こうした機器の開発における“熱対策”は,安定稼働のための重要な課題となっています。
機器内部の高集積化,実装密度の増加に対し,いかに冷却効率を上げていくか。各メーカーが試行錯誤を繰り返すなかで,高性能な小型冷却ファンのニーズは,これまでにない高まりをみせています。
ラックマウント型サーバは,拡張が容易でかつスペースを取らないことから,データセンターをはじめ,企業のサーバルーム,製造業のCAEシステム,大学や研究施設のセンターシステムといった大規模導入を必要とするシーンで広く活用されており,現在,商用Webサーバとしては世界で最も普及しているともいわれています。
システム設計・開発や,サーバ,ネットワーク・通信機器などの製造を手掛けるICT機器メーカーS社は,このほどデータセンターに向けた1Uサーバの次期モデルを開発するにあたり,消費電力の低減と発熱を抑えるための試行錯誤を繰り返していました。
近年,1Uサーバは普及率の高さから市場競争を激化させており,サーバの安定稼働と省エネ性能が重視されています。S社としても,競合との差別化を図るために,コストパフォーマンスの追及はもとより,製品性能において常に一歩抜きん出ている必要がありました。
次期モデル開発のポイントを“冷却効率”に絞り込んだS社開発チームは,現行の冷却システムを見直し,ファンの台数を増やすことに。同社技術開発センター第一開発部のF部長はこう語っています。
「限られたスペースに部品を高密度実装するため,装置内の温度が高くなります。さらに,システムインピーダンス(通風抵抗)も高くなるため,装置の冷却には高い静圧のファンが必要です。」同社はいくつかの軸流ファンを使用し,検証を開始しました。
まずは,小型ファン2台を直列で実装しました。計算上は2倍の静圧を得ることができると考えられましたが,実際に組み込んでみると,風下側のファンが風上側のファンにとって抵抗(障壁)となってしまうため,静圧特性が想定したほど向上しません。
次に並列実装も試みましたが,スペースの制約から設置できず断念することに。当時の様子について,F氏はこう振り返ります。
「冷却効率を上げるため,各社のファンを使用して検討を繰り返したのですが,どれも思ったような効果は得られず,完全な手詰まりに陥ってしまいました。このままでは製品開発に支障をきたすため,なんとかして解決策を見つけ出す必要がありました。」
限られた実装スペースで冷却効率を上げる方法について情報収集を続けていたF氏は,とある展示会で山洋電気の「二重反転ファン」に目を留めます。実は,F氏は以前から二重反転ファンにも着目していましたが,なかなか導入に踏み切れずにいたのです。F氏はさっそくブースの担当者に次期モデル開発の課題を相談することに。
「以前,当社の別部門が山洋電気製品を採用した際に,きめ細かなサポートを得られたと聞き及んでいたことがきっかけでした。高い信頼実績を持つ山洋電気ならば,最適解を導き出してくれるだろうという期待がありました。」(F氏)
後日,S社を訪れた山洋電気の営業担当者は,二重反転ファンと2台の通常ファンを使用し,実演を交えたプレゼンテーションをおこないました。
「二重反転ファンの厚さはファン2台分とほぼ同じでしたが,それ以上の風量・静圧を得られることを体感できました。仕様を見れば風量・静圧の高さは分かるのですが,このデモで実際に二重反転ファンを見て,限られたスペースで冷却効率を高めるイメージを持つことができました。」(F氏)
この二重反転ファンは,回転方向が異なる2枚のファンを同一軸線上に並べることで,2台のファンを設置するよりもはるかに高い風量・静圧を確保できるとのこと。
さらに,多数のサーバに導入実績を持っており,信頼性の面でもS社スタッフを安心させたといいます。
こうして「二重反転ファン」の有効性を確信したS社は,試作機における採用を決定し,次期モデルに必要なシステム概要と構成要件などを伝えたうえで,山洋電気に提案を依頼しました。
依頼を受けた山洋電気は,最適なファンとして「40mm角48mm厚」モデルを紹介。S社スタッフはまずその構造に驚きました。吸い込み口(前部)の羽根が5枚なのに対し,吐き出し口(後部)の羽根は4枚しかありません。
「担当者さんからは,40mm角のファンではこの構造がもっとも効率よく特性を得られるという説明を受けました。冷却ファンのプロとしての長年の経験を感じた瞬間でしたね。」(第一開発部設計担当G氏)
そして,さっそく納品されたファンを試作機に実装し,温度上昇試験をおこなったところ,期待した以上の冷却効果を得ることができました。
「すんなりと要求をクリアできたので,拍子抜けしたというのが正直なところです。また,提出していただいた各種データにより信頼性の面でも問題ないと分かりました。」(F氏)
冷却効果は想定以上であったため,山洋電気はさらに消費電力を低減すべく「PWMコントロール機能付」を推奨。常に必要最低限の回転速度に設定することで,省エネ・低騒音性能も十二分に満たすことができました。
こうしてS社は無事,次期モデルの試作機を完成させました。試作機は最大風量は約51%アップ,最大静圧約44%アップ,および消費電力の低減によって,期待以上のパフォーマンスを発揮しました。
F氏はこう語っています。
「二重反転ファンを採用したことで,予想以上の冷却効果を得ることができました。さらに,思った以上にファンの消費電力と騒音をおさえることができ,非常に満足しています。こうした要件を実現できたのは,山洋電気の継続したサポートのおかげと確信しています。」
数ヵ月後に満を持してリリースされたS社の新モデルは,F氏らの期待通り市場から好評価を得ています。
二重反転ファンについて詳しくは「二重反転ファンの特徴」もご覧ください。
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