スマートフォンの普及によるデータ通信量の増大に対応するため,携帯電話キャリア各社では,基地局の増設や設備強化を進めています。
携帯電話は社会生活にとって必要不可欠なインフラであるため,基地局などの設備には,長期間にわたり故障せず確実に動作する信頼性が求められます。
スイッチング電源などの各種電源装置の開発・製造・販売をおこなうL社は,通信機メーカーから携帯電話基地局の次期モデル用電源の開発依頼を受けました。同社,設計開発部のB部長はこう振り返ります。
「基地局は,ビルの屋上や住宅地だけでなく,人里離れた山林や空港のない離島などにも設置されます。部品が故障すると,通信が遮断されるなど社会的に大きな問題が発生する可能性もあります。 そのため,装置に使用する部品一つ一つに高い信頼性が求められます。それは,電源装置も例外ではありません。」
顧客の要望に合わせたカスタム対応を得意とするL社は,この電源装置の開発も順調に進めていました。しかし,冷却ファンについて課題を抱えていました。
「基地局に使う部品の寿命が短いと部品交換などのメンテナンスが頻繁に必要になり,非常にコストがかかります。通信機メーカーからは,そのコストを抑えたいという強い要望がありました。私たちは,顧客のニーズに合わせた多種多様な電源装置を開発してきました。なんとしてもニーズにそった電源を開発したいと思っていました。
長年の技術の蓄積で回路設計などは得意です。しかし,装置全体の寿命に大きな影響を与える冷却ファン選びは悩みの種でした。私たちは,装置のメンテナンスフリーを実現する長寿命の冷却ファンを探していました。」(B氏)
というのも,同社は以前「期待寿命50,000時間」のファンを採用していましたが,実際には3年ほどで交換が必要となることがしばしばありました。
仕様に記載されている期待寿命に対し,実際には半分ほどしかもたない理由について,B氏が製造元に問い合わせたところ,期待寿命は「周囲温度25℃」で定義したものであると回答を得ました。実際の周囲温度は約50℃であり,それが予想外に寿命を短くしたのだと考えられました。
そのため,今回開発する電源装置には,高い周囲温度でも長期間故障せず確実に動作し続ける信頼性の高い冷却ファンが求められました。
※ファンの寿命について詳しくは山洋教室ファンの基礎知識:ファンの寿命
B氏はまず,「期待寿命100,000時間」というのが,周囲温度60℃のときの期待寿命という点に注目しました。山洋電気の担当者にファンの耐久性について相談したところ,「周囲温度が15℃上がると,期待寿命は半分になる」という説明を受け,さらに詳しく話を聞くことに。
「従来のファンは,期待寿命と実際の寿命にかなりのギャップがありましたが,その理由が温度条件ということがはっきりわかりました。周囲温度60℃のときの期待寿命ということなら,山洋電気のファンを採用することで,高い耐久性が得られると期待できました。さらに,ラインアップのなかには期待寿命が200,000時間の製品もあることを知りました。200,000時間というと少なく見積もっても約20年は持つ計算です。装置寿命を上回り,通信機メーカーのメンテナンスコスト低減に貢献できると期待できました。」(B氏)
さっそくB氏は,評価用サンプルを取り寄せ,実機検証をおこないました。評価の結果,冷却性能は従来品と同等以上で,問題ないことがわかりました。さらに,工場監査のため,山洋電気の富士山工場を訪問します。その結果は,B氏を大きく満足させるものでした。
「冷却ファンなどの部品は,抜き取り検査だとばかり思っていましたが,山洋電気では,全数検査をおこなっていました。ほかにも,信頼性を向上させるための工夫がたくさんありました。」(B氏)
こうした品質への徹底的なこだわりが決め手となり,ほどなく同社は新たな携帯電話基地局用の電源装置において,山洋電気製「長寿命ファン」の採用を決定しました。
今回の採用についてB氏はこう語っています。
「山洋電気の長寿命ファンにより,高い信頼性を確保できたことで長期間の無保守運転を実現し,通信機メーカーのメンテナンスコストの大幅カットに貢献できるようになりました。今回,こうした信頼性の高い電源装置を開発できたことは,これからも当社の発展に大きく貢献してくれると期待しています。」
長寿命ファンについて詳しくは「ファンの寿命」もご覧ください。
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