ファンの寿命は装置の寿命を左右します。これは,装置に使用されている部品の寿命が,温度に左右されるためです。ファンの寿命が装置より短いと,装置のメンテナンスとして,ファンの交換が必要になってしまいます。3時間目では,ファンの寿命を見てみましょう。
一般的にファンの寿命とは,ある一定期間連続運転することで,「一定以上の送風能力の低下」「一定以上の騒音の増加」を基準に定義しています。
カタログでは,ファンの期待寿命がこのように記載されています。
「残存率90%」と「L10」は,総数の90%のファンが正常に回転を続けられる時間を示しています。つまり,どちらも同じ意味で,信頼度90%の寿命を定義しています。
山洋電気では,「一定以上の送風能力の低下」を,ファンの回転速度の低下とみなし,ファンの回転速度が初期値の70%に低下するまでの時間を寿命と定義しています。
■回転速度とファン寿命の関係
電気製品の寿命は,部品が多く搭載されるほど,影響される要素も多くなります。装置設計の際,装置寿命=MTBF(電子部品の寿命)と定義することもあります。
しかし,ファンの場合は電子部品よりも,羽根を回すモータ部にある軸受部品,つまり,構造部品の寿命が大きく影響します。軸受部品にも種類はいろいろありますが,山洋電気では,すべて信頼性の高いボールベアリングを採用しています。
ボールベアリングの寿命には,「疲れ寿命(はくり寿命)」と「グリース寿命」の2種類あります。ファンは,産業用のモータと異なり,軸受への負荷が比較的に小さいため,「疲れ寿命」が問題になるケースはほとんどありません。
したがって,ボールベアリングの「グリース寿命」がファンの寿命を決める最大の要素になります。
ファンの寿命は「グリース寿命」で決まるので,グリース寿命を延ばせばファンの寿命も延びます。この「グリース寿命」を延ばす方法は4つあります。
1.軸受温度の低減
2.軸受荷重の低減
3.グリースの改善
4.軸受の耐荷重の改善
2~4はファンの開発時に決まってしまうため,ユーザのみなさんが改善するのは難しいですが,「1.軸受温度の低減」については,ファンの周囲温度を低減する方法でも同様の効果が得られます。例えば, 60℃環境での期待寿命が40,000時間のファン(*)は,40℃環境下では約70,000時間になります。
*San Ace 型番:9GA0312P3K001の場合。
主に冷却に使用されるファンですが,ファン自体も周囲温度の影響を受けているということを理解していると,周囲温度を考慮したうえで選定できるので,装置のメンテナンスフリーに繋がると思います。
ベアリングの「グリース寿命」は期待寿命に影響する最大の要素です。そのため山洋電気では,「軸受温度の低減」や「軸受荷重の低減」など,グリース寿命を延ばすための工夫をしています。
例えば図1のように,樹脂製フレームから放熱性の良いアルミ製フレームにすることでベアリングの温度上昇を抑えることができ,「軸受温度の低減」を実現しています。
今回は,ファンの寿命について学びました。期待寿命のほか,みなさんが冷却や送風に使うファンを選定する際に,よく最大風量と最大静圧の数値を比較していませんか。実は,ファンは装置に取り付けると,この両方の性能を出すことができないのです。
次回は,「ファンの風量-静圧特性」について,一緒に学んでいきましょう。
監修:山洋電気株式会社 クーリングシステム設計部
公開日: