医療や食品メーカー向けのクリーンルームやクリーンブースの設計・製造をおこなうL社。今後,天井設置型の空調機器に使っているインダクションモータが「トップランナー基準」の影響により入手が困難となるため,早急に仕様変更をおこなう必要に迫られていました。しかし,変更にはいくつかの課題を抱えていたのです。L社設計開発部のG部長は,こう振り返ります。
「当社では,従来クリーンルームを設計する場合,大きなシロッコファンをインダクションモータで回し,ダクトを通して各吸気孔から吸い出す方法を用いていました。
その際,複数箇所の高密度フィルタを通すために,かなりの静圧が求められます。静圧を稼ぐには羽根を高速回転させなければならず,高速回転に耐えられる剛性の高い金属製の羽根を使っていました。金属製の羽根は重量があるため,0.75kW以上のインダクションモータで回していたのですが,このモータの容量を早急に見直す必要がありました。」(G氏)
しかし,トップランナー基準の対象外となる低容量のインダクションモータでは,排気性能を維持するために,装置を分散設置する必要があります。装置の変更には,新規設計に時間がかかるうえ,ダクトの配管作業などによるコストアップが発生し,なによりも,ポイントとなる省エネが難しくなってしまいます。
そこで,フィルタ直上で吸気をおこなうファンフィルターユニット(FFU)の開発を検討したのですが,ファンの選定で行き詰ってしまいました。
「医療品,食品を取り扱う環境は湿度が高いため,耐環境性能も重要なポイントでした。ですが,高い排気性能と耐環境性能を満たせるファンがなかなか見つかりませんでした。」(G氏)
情報収集を続けていたG氏は,問い合わせたメーカーの1社である山洋電気が提案した軸流「防水ファン」によって,課題が解決できることを知ります。
軸流ファンは静圧が稼げないと思い,検討していなかったG氏は,山洋電気の提案に最初は驚きました。しかし,この提案でさまざまな課題が一気に解決できることが分かったのです。
「理由を聞いてみると,軸流ファンを使うことで少ないスペースでフィルタ全面を利用することが可能とのことでした。実際に設計してみると,吸気機構の設置サイズを50%以下に抑えて省スペース化も実現することができました。
心配していた排気能力については,防水ファン5台をファンフィルターユニットに使うことで,従来の風量を確保できました。さらに驚いたのが,ファン1台で1kPaもの静圧を持っていたことです。これにより,高密度フィルタにも対応できることが分かりました。」(G氏)
耐環境性能についても,保護等級「IP68」(*)で,問題ないことがわかりました。防水性の高い樹脂素材を使用し,電子部品も樹脂でモールディングしているので,活電部を水・埃から保護できるとのことでした。
(*)保護等級IP68:耐塵形 常時塵埃中でも使用できる回転機/水中形 指定圧力の水中に常時没しても使用できる回転機
G氏は,さっそくサンプルを取り寄せ,実機に組み込んだ製品評価に着手しました。
「山洋電気のアドバイスに基づいて,ファンフィルターユニットに防水ファンを採用した結果,従来の排気性能を維持しつつ,消費電力も20%カットできました。」(G氏)
G氏はさらに,ファンの耐久性についても問題ないことを確認します。
「念入りな評価テストの結果,高湿度環境下で使用してもまったく故障しないことがわかり,防錆加工を施した金属製の羽根と同等以上の優れた耐環境性能を確信しました。」(G氏)
こうしたメリットを確認した後に,L社は山洋電気製「防水ファン」の採用を決定しました。
「今回採用した防水ファンにはPWMコン卜ロ一ル機能がついているので,さらなる消費電力の低減が期待できます。今回は,一定速で回転させていますが,PWMコン卜ロ一ル機能を使えば回転速度の制御が可能になります。
オプションとして,クリーンルーム内にセンサを設置し状況に応じた排気制御をする低消費電力の機種を今後検討していきたいです。」(G氏)
「防水ファン」の採用についてG氏はこう語っています。
「山洋電気には,ファンの効果的な使い方や省エネ実現のためのアドバイスをいただき,非常に役立ちました。これからもよきパートナーとして,一緒にお客さまのメリットを追求していきたいと考えています。」
防水ファンについて詳しくは「防水ファン・防油ファン・耐温ファン・耐Gファンの特徴」もご覧ください。
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