食品加工機メーカーのH社では,食品メーカーから加工機を高速化できないかという相談を受けていました。H社開発部のE氏はこう語ります。
「当社の食品加工機は,お客さまの食品の加工対象に合わせて,専用機としてカスタマイズしています。オプション機構をつけることで複数品目の食品加工に対応できるので,これまでは,加工機を複数台稼働して生産量を調整する場合が多かったのです。しかし,繁忙期など生産量の増加に柔軟に対応できるように,加工スピードをアップして段取り替えの工数を減らしたいというご要望をいただいておりました。また,狭い場所にも置けるように,装置の小型化も検討課題でした。」
これらの要望にこたえるにはいくつかの技術的な課題がありました。
「一番の問題はモータでした。現行機ではインダクションモータを搭載していました。トルク不足を補うために減速機を使い,インバータで速度を制御していました。
材料の性質から,休憩時間にラインを停止させると材料が乾燥して硬くなります。再始動する際に大きなトルクが必要になりますが,この再始動時に確実に動作することをモータ選定の条件にしていました。
しかし,インダクションモータは定格回転数のときにトルクが最大になり,低速域ではトルクが出にくいという特性があることから,低速域での必要トルクに合わせると,トルク的に余裕のある大きなモータ選ぶ必要がありました。」(E氏)
E氏は解決策を模索していました。 「はじめに,現行モータのまま減速機を変更して速度を上げるための試作機を作りました。しかし,減速機の比率を下げると低速域のトルク不足から再始動できないことがあり,モータ容量を上げる必要がありました。モータサイズが大きくなるだけでなく,発熱も増加する結果になりました。発熱は食品の品質に影響を及ぼすことから,この案は見送りとなりました。
次に,装置の加工ライン数を増やして並列動作させる案を考えました。しかし,メカ機構が複雑になりコストアップにつながることから,これも見送りとなりました。なかなか解決策が見つからず困りました。」(E氏)
H社では,複数の顧客より同様の課題が寄せられており,早急な対応が求められていました。
代わりのモータを探していたE氏は,知り合いのエンジニアから紹介された山洋電気に相談しました。
山洋電気の担当者はE氏の課題に対し,クローズドループステッピングシステム「SANMOTION Model No.PB」を提案しました。この提案内容にE氏は驚きました。
「これまでに使用してきたモータはすべてインダクションモータでした。モータのトルク-速度の特性を気にしたことがなかったので,低速なほどトルクが出るというモータがあることを知りませんでした。 始動時に確実に動作することを条件にモータを選定していましたが,今回提案いただいたモータは,現行機のモータに比べて,サイズが1/5,重さも1/10くらいでした。こんなに小さなサイズのモータでも問題なく動くことに驚きました。また,トルクが必要なときだけ電流を流すように制御されているそうで,モータの発熱も抑えられることが分かりました。」(E氏)
しかしE氏にはまだ懸念がありました。 「制御モータは設定が難しいというイメージがあったので,操作が煩雑になることを心配していました。しかし,速度の調整もスイッチで簡単に切り換えるような使い方ができることがわかりました。これならば,お客さまの使い勝手としても問題ありません。
さらに,4つのモータを1つのドライバで制御できることが分かりました。今まではモータ1台に対してインバータ1台が必要でしたので,制御部のダウンサイジングも期待できます。まさに今回の課題解決に最適な提案であると思いました。」(E氏)
E氏は「クローズドループステッピングシステム」を組み込んだ食品加工機の開発に着手。山洋電気からサポートを受けながら,無事に新モデルを完成させました。 「新モデルでは加工速度が現行機の2倍になりました。また,モータ部分の出っ張り部分もなくなり,装置の小型化が実現しました。おかげさまで,生産量や材料の種類や状態が変わっても,柔軟に対応できる食品加工機が完成し,お客さまには大変ご満足いただいております。」(E氏)
ステッピングモータについて詳しくは「ステッピングモータとは? 仕組み,種類,使い方(駆動方式・制御方法),メリットや特徴を解説」もご覧ください。
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