ステッピングモータとは,制御モータの一種で,「センサなし」に「位置決めができる」制御用モータです。パルスモータ,ステップ,ステッパモータなどとも呼ばれます。
センサ付きのサーボモータに比べ脱調リスクなどのデメリットはあるものの,「安価に簡素な制御で」位置決めを実現することができます。そのため,「ある程度単純な位置決めを,コストをかけずに実現する必要のある機器」に搭載されるケースが多くなっています。
ステッピングモータは,「時計の秒針」のように「一定角度(ステップ)ずつ回転」します。この角度を切り替える(制御する)ことによって位置決めをおこないます。
ステッピングモータは「安価で簡素な位置決め制御」の特長を生かし,さまざまなシーンで陰ながら,私たちの生活を豊かにしてくれています。
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ステッピングモータの仕組みや特長について,より詳しく解説しています。
ステッピングモータは,日常生活で私たちの目に直接触れることはないものの,さまざまなシーンで私たちの生活を支えてくれる,数多くの「機械の中」で働いています。
実際にどこに使われているのでしょうか?その一部を代表例としてご紹介します。
人手不足で,機械化や自動化の重要性が年々高まっています。そんな課題を解決する「工場用のロボット」の中で,ステッピングモータは活躍しています。
その代表例が「スカラロボット(水平多関節ロボット)」です。水平な動きをメインとするスカラロボットは,「搬送・組み立て・ネジ締め」などの比較的単純な作業を得意としています。例えば,チョコレートを専用箱に箱詰めするシーンなどが,イメージしやすいのではないでしょうか。
センサを持たないステッピングモータも同様に「比較的単純な繰り返し動作」を得意とする特長があります。かつ安価に位置決めを実現できるので,水平の動きをメインとするスカラロボットにもってこいなのです。
一方もう少し複雑な動き(垂直・婉曲)を必要とするロボットには,センサ付きのサーボモータが使用されます。
このようにステッピングモータを始めとするモータたちは,モノづくりにおいて,省人化・品質向上・コストダウンなどの面で,大きな貢献をしています。
3Dプリンタは,樹脂を吹き付け積層していくことで,「立体(3次元のオブジェクト)を造形する装置」です。思いついたデザインをすべて造形することができるので,よりよいアイディアを創出でき,また開発期間やコストの削減など,モノづくりや建築業界に大きな革新をもたらしました。サグラダ・ファミリア建築において,3Dプリンタを始めとしたIT技術を導入したことにより「工期がなんと150年以上短縮された」ニュースに,驚いた方も多かったのではないでしょうか。
さて,3Dプリンタのどの部分に,ステッピングモータは使用されているのでしょうか?
答えは,樹脂を吹き付けるノズルの駆動部。下記の図のように,ノズルの位置決めをおこなう際,ステッピングモータは活躍しています。
3軸(XYZ軸)のモータを使用することにより,ノズルを「3次元に移動」させ樹脂を蓄積し,3Dオブジェクトを造形します。
複雑な3Dオブジェクトを造形するためには,制御モータを用いた正確な位置決めが欠かせないのです。
今や国内だけでも,年間50万台近く出荷される複写機・複合機。ペーパーレスが推奨されているものの,効率的に業務をおこなうためには欠かせない,OA機器の代表です。近頃はコンビニエンスストアでも,スマートフォンのデータを出力できるなどの多機能なコピー機が増え,便利さを感じられている方も多いかと思います。
さて「情報を読み取り,紙に出力する」という,とてもシンプルな動作。その行程のどこに,ステッピングモータは使われているのでしょうか?
こちらはみなさまのご想像の通りかもしれません。「原稿スキャン」の動作,「紙送り」の動作で,ステッピングモータは力を発揮しています。
まず原稿スキャンの動作。滑らかに歪みなく原稿を読み取るために,制御・位置決めをおこなっています。次に紙送りの動作。コピー機の内部には「紙送り用のローラー」が複数使用されています。そのローラーを動かし,紙を「素早く正確に」送るのが,ステッピングモータの役割です。
プリントミスをすることなく,歪みのないきれいなコピーをするために,ステッピングモータが活躍しています。
先に基板検査装置とはどういった機械か?をご紹介いたします。基盤検査装置とは,文字のままにはなりますが「基板」を「検査」する装置です。私たちの身の回りの電気製品や自動車には全て「電子基板」が使われています。電子基板に多数の電子部品を集約し,相互に働くことによって製品は正常な動作をおこなっています。
その基板に少しでも不具合があれば(例えばハンダの一部がショートする),製品は動くことができません。その不具合を回避するために,検査をおこなう際使用するのが「基板検査装置」です。
基板検査は「印刷工程検査」「マウント工程検査」「リフロー工程検査」などの複数の工程があり,従来は人間の目で検査をおこなっていました。しかし基板の小型化や人手不足により,「基板検査装置」を用いた検査の役割が大きくなっています。
そんな基板検査装置のどの部分で,ステッピングモータは働いているのでしょうか。それは,「基板位置を合わせる幅寄せ」の部分です。少しわかりにくいと思いますので,下の図を使ってご紹介します。基板はベルトに乗って,各行程の検査を経て次の行程に送られます。その際基板の「位置がずれてしまったり,角度が曲がってしまったり」しては,正確な検査をすることができません。ステッピングモータは幅寄せの位置を制御することによって,「ピッタリと整列した状態」で基板を検査に回す働きをしています。
駅で切符を通す際の自動改札機でも,ステッピングモータは使われています。
使用箇所は,乗車券を挿入口から出口まで運ぶ「搬送部分」です。自動改札機の内部は搬送用ベルトを使って,乗車券を搬送していますが,そのベルトはステッピングモータの動力を使って動いています。朝などのラッシュ時には混雑の原因とならないよう,入口から出口まで「1秒以内」に搬送する必要があります。また正確に出口で動きを止めることで,ピッタリと手元に乗車券を届けることができます。
線材加工機とは,線材線を加工するための機械です。
線材は,線のように細長い鋼材のことで,針金のようなものをイメージしていただければ分かりやすいかもしれません。その線材を「長さを切る」「先端の被覆を向く」「ねじってワイヤーにする」「ネジ・バネにする」などさまざまな加工をする機械が,線材加工機です。
ステッピングモータは線材加工機の「線材の送り部分」に使われています。下の図のように,加工部まで必要な長さの線材を送ります。ステッピングモータが重宝されている理由としては,ステッピングモータの「定速で回転する」特長を生かすことで,線材を緩めずに加工部まで送れることがあげられます。
みなさまの身近な存在でもある,「遊戯ゲーム」にも,意外な所で多くのステッピングモータが使用されています。その代表例が「スロットマシン」です。スロットマシンの一体どこに,ステッピングモータが使用されているのでしょうか?
答えは「リール」です。リールとは,スロットの3つの絵柄が並ぶ部分のことで,スロットゲームの「正に主役」とも言える部分です。プレーヤーがボタンを押したタイミングに合わせて,リールは「決められた位置にピタッと止まり」ます。その動きを実現する際に,ステッピングモータは働いています(下図)。スロットゲームをしながらドキドキするのも,ハラハラするのも,実はステッピングモータが一躍買っているのですね。
続いてもう1つだけ,遊戯ゲームで使われているステッピングモータをご紹介します。それは「クレーンゲームのアーム部分」です。
アームを前後左右に「移動」させる動きは,ステッピングモータで生み出しています。
こちらもまた,クレーンゲームの醍醐味と言える部分を,ステッピングモータが担っています。
ボタンから手を離した瞬間,アームが「時差なくピタッと止まる」どきどき感を作り出しているのは,実はステッピングモータだったりします。
このように,産業用の機械だけでなく,身近な楽しい部分でもステッピングモータは活躍しています。
私たちの街の安全を,日々守ってくれている監視カメラ。その中にもステッピングモータは,人知れず力を発揮しています。どの部分で働いているのか,それはカメラの「可動部分(首振り部分)」です。監視カメラはその性質上,上下左右だけでなく,時には360°の監視が要求される製品もあります。ステッピングモータはその移動・位置決めに使われることが多くなります。ただし,ステッピングモータは「低速回転時に振動が大きくなってしまう」という弱点があるので,低速機(ギヤ)を使用するか,サーボモータに置き換えるなどの対策が必要になる場合があります。
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以上,ステッピングモータが「生活のどんな部分で活躍しているのか」について,ご紹介致しました。実際に目に見えることはほとんどないモータですが,これからもさまざまな用途で,多くの製品の中で使われていく可能性があります。実際の動いている姿を想像しながら身の回りの製品を見てみると,おもしろいかもしれません。
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