真空環境でモータが使われていることをご存じでしょうか。
真空環境では,大気中では実現できない特殊な加工・製造がおこなえるため,地上でも真空環境の中でモータが使われているケースがたくさんあります。
また,今後,宇宙ビジネスが急速に拡大すると予想されており,新しい仕事の創出,新しいイノベーションの促進,そして私たちの生活を向上させる新しい製品やサービスの開発にともない,宇宙でモータが活躍する場も増えていくことが見込まれます。
しかし,真空環境は,私たちが過ごしている環境とはまったく異なります。
今回は真空環境の種類,モータを使用する用途や注意点,当社でのカスタマイズ事例についてもご紹介します。
真空とは,通常の大気圧より低い圧力の気体で満たされた空間の状態をいいます。真空は,科学,工学,医療など,多くの分野で重要な役割を果たしています。
科学分野では,原子や分子を研究する際に使用されます。
工学分野では,真空は半導体や太陽電池などの材料の製造,電子部品の製造に使用されます。
医療分野では,真空は生体組織の研究,血液や組織の保存,手術器具の滅菌などに使用されています。
真空は,物理学における概念としても重要です。古典論における絶対真空は,空間に分子がまったくない状態です。宇宙空間は真空と言われていますが,実際には宇宙にも微量に分子が存在しているため,あくまでも仮想的な状態で,実在しない空間です。
負圧は,地球上の標準的な大気圧(海面付近=1気圧)より気圧が低い状態です。JIS(日本工業規格)では,低真空・中真空・高真空・超高真空の4段階を定義しています。
ここまで真空について説明してきましたが,この真空環境を生かした装置や宇宙空間で使われる装置にはモータが使われています。
真空薄膜形成装置は,金属,セラミック,半導体,有機材料などの薄膜を形成するために使用されます。
薄膜は,半導体デバイス,太陽電池,ディスプレイ,光学デバイスなど,さまざまな用途で使用されています。
真空薄膜形成装置に真空環境が必要な理由は,薄膜の成長に必要な原子や分子の動きを妨げる空気分子を除去するためです。
真空環境では,気圧が低いため,原子や分子は互いに衝突する可能性が低くなります。これにより,原子や分子は目的の場所に付着しやすくなり,均一で高品質の薄膜を形成することができます。
真空冶金装置は,真空中で金属を溶解および凝固させるための装置です。
冶金装置に真空環境が必要な理由は,
「大気中の不純物を除去することで,金属の酸化や不純物の混入を抑制できる」
「真空中では,金属の凝固速度が速くなるため,結晶粒が細かく均一な金属製品を製造できる」
「凝固中に発生する気泡が小さくなり,金属の強度が向上し品質が上がる」
などのメリットがあるためです。
加速器とは「電子」や「陽子」などの粒子にエネルギーを与えて高速に加速する装置です。
加速器は,真空環境で動作する必要があります。これは,加速器内で粒子が空気中の分子と衝突すると,エネルギーを失ってしまうためです。
真空環境では,粒子と空気中の分子の衝突を避けることができ,粒子を高速に加速することができます。
加速器は,物理学,化学,生物学,医学など,さまざまな分野で研究に利用されています。
また,医療診断や放射線治療にも利用されており,粒子線治療などで私たちの身近でも役立っています。
宇宙空間においてモータは,人工衛星や宇宙船の多くの機器の動作に使用されています。
これらは一例ですが,モータは宇宙船や人工衛星の運用に不可欠なデバイスです。過酷な環境下でも信頼性を保ちつつ精密な動作を実現し、ミッションの成功に欠かせない役割を果たします。
真空環境でモータを使い,対象物を動かす場合,以前は真空導入機(回転導入機)などを使いながら,外部にあるモータの動きを真空チャンバー(真空状態を保持する空間)の中に伝えていました。
しかし,真空導入機のスペースが大きく,場所を取るなどの課題がありました。
真空用モータであれば,真空環境内に直接設置して使うことができるため,真空導入機が不要となり,装置を小型化できます。
さて,真空条件下でのモータの使用における注意点について解説します。
モータの巻線に電気を流すことで,巻線の温度が上昇します。大気中であれば,空気の対流によって熱が逃げるのですが,空気がない真空中では温度上昇が大きくなります。そのために発熱対策が重要になります。
真空中では潤滑油や冷却油が揮発します。揮発した油が真空中に拡散すると,真空ポンプや真空チャンバーの表面に付着してしまい,性能の低下につながります。
また,潤滑油が蒸発すると,ベアリングやギアなどの部品の表面の潤滑が保てなくなります。
さらに,標準的なモータであれば,フランジやエンドブラケットは,ダイカスト(溶かした非鉄金属の合金を金型に高圧で注入して製品を成形する技術)で作られています。しかし,この方法では微細な空気が表面に残り,アウトガスの原因につながります。
さらに,超高真空環境で使用される場合には,固体潤滑(ボールベアリングの内輪・外輪・ボールにコーティングのみ)のベアリングを使用するなどのカスタマイズをおこなっています。
真空環境下でのモータの故障は,深刻な問題を引き起こす場合があります。特に,修理や交換が困難な用途では非常に高い信頼性が求められます。
真空環境下でのモータは,熱が逃げにくいため,極力少ない電力で高いトルクを出すことが重要です。そのため,効率が高いモータを選ぶ必要があります。
半導体製造装置・電子顕微鏡・加速器・放射光分析装置・宇宙船ロボットアームなど
□42 mm~□86 mm
フルカスタマイズでお客さまにあったモータをご提供できます。詳しくはぜひお問い合わせください。
真空中での使用環境はお客さまごとに異なります。
山洋電気では,お客さまのご要望に応じてさまざまなカスタマイズを行うことができます。
是非ご相談ください。
協力:山洋電気株式会社 サーボシステム事業部設計第一部 営業本部サーボシステムビジネスグループ
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