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モータの疑問を解決

モータとは?モータの役割と種類,歴史と動作原理や構造

1. モータとは?モータの役割

モータとは,電気の力から機械的な力を生み出す機器です。洗濯機や扇風機,エアコンなどの身近な家電製品から,ATM(現金自動預け払い機)や自動改札などの社会的なインフラに関わるものまで,ありとあらゆる“動くもの”に利用されています。
その意味で,現代を生きるすべての人がモータの恩恵を受けながら生活していると言えるでしょう。機械的な力を生み出す動力源には,モータのほかにもエンジンや蒸気機関などがあります。
しかし,モータには他の動力源にはない3つの特長があります。

1.エネルギー変換効率が高い

たとえば,一般的なエンジンの熱効率は30~40%といわれています。これは,投入したエネルギーの30~40%しか動力にならず,残りの60~70%は熱として捨てられていることを示しています。
一方,モータのエネルギー変換効率は80%以上です。このように,エンジンと比べてエネルギーを無駄にすることなく,動力に変えられるのです。

2.構造がシンプルで制御しやすい

エンジンは多くの機械部品から構成されており,それぞれの部品も精度よく作る必要があります。また,エンジンを電子制御するためには多くのセンサを使うので,制御が複雑になります。
エンジンに比べると,モータは構造がシンプルであり,直接電気で動かすことができることから,電気できめ細かく制御することに適しています。

3.クリーンである

この点も忘れてはいけません。エンジンはガソリンを燃やして動力に変換するため,どうしても二酸化炭素(CO2)が排出されます。それに対して,モータはそれ自体からガスが排出されることはありません。
カーボンニュートラル実現に向けた流れが加速するなか,モータには大きな期待がかけられているのです。

このような特長から,現在モータはさまざまな設備や機器の動力源や制御装置としての役割を担っています。今後さらに,その活用シーンは増えていくでしょう。

関連記事:山洋教室「ステッピングモータとは? 仕組み,種類,使い方(駆動方式・制御方法),メリットや特徴を解説」
では,ステッピングモータの仕組みや特長について,より詳しく解説しています。

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2. モータの歴史

モータは社会の技術革新の流れのなかで発明され,進化してきました。
人間はもともと人力や動物の力によって物を動かしていました。人間が自分の力で物を動かすことは,昔もいまも当たり前におこなわれています。また,馬車は紀元前には発明されていたといわれており,日本の平安貴族が牛車を使っていたことはご存じの通りです。
しかし,人力や動物の力ではいくらテコや滑車を利用しても,スピードや力に限界がありました。

このような動力を大きく変化させたのが,1700年代後半から1800年代にかけて起きた産業革命です。
人や動物をはるかに超える力を持つ蒸気機関が登場し,工場制機械工業が成立。農耕社会から工業社会へと社会構造の変革がおきました。また,蒸気機関車や蒸気自動車,蒸気船が開発されたことで,交通や物流の形も大きく変化しました。ただし,蒸気機関には大きくて重いという欠点がありました。

発明家や研究者は蒸気機関に変わる動力を模索しはじめます。モータはこうした変革のなかで登場したのです。
イギリスの科学者マイケル・ファラデーが1821年,モータと発電機の原理を発見。1831年には電磁誘導の法則を発見しました。これがモータに応用されていくことになります。
そしてファラデー以降,アメリカのトーマス・ダベンポートらによってDCモータ(直流モータ)が開発されましたが,なかなか実用化には至りませんでした。

最初の実用的モータは,ニコラ・テスラが発明した二層AC誘導モータ(交流誘導モータ)でしょう。テスラは1888年,自分が発明したモータを回すために多相誘導発電機を開発,1889年には特許を取得しました。これによって,モータが実用化されていくことになります。

その後,モータは動力源としての役割だけでなく制御装置としての役割も担いながら,進化を続けていきます。現在,国内の電力の50%がモータによって消費されているといわれています。モータはそれほどまでに人間の生活に深く関わっており,文明を支えるものになっているのです。

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3. 山洋電気のモータの歴史

山洋電気のモータの歴史は,20世紀前半にまでさかのぼります。

まずは1932年に,モータと原理構造が同じである発電機を無線通信機用に開発しました。1952年には,軍事通信電源用に製造していた回転機を民需へ転換。山洋電気は電気通信・電源分野における主力メーカーとなっていきました。

1952年になると,電気試験所(現産業技術総合研究所)からサーボモータ開発の依頼を受け,研究に着手。まもなく国産初のサーボモータを完成させました。当初は期待したような需要がなく,なかなか日の目を見ませんでしたが,これがサーボモータを主力とする現在の山洋電気の礎となりました。

サーボモータを完成させたあとも,国産初のステッピングモータや国産初のファンを完成。こうした「国産初」の製品を開発しながらOA(オフィスオートメーション)やFA(ファクトリーオートメーション)の波に乗り,各種モータをグローバルに展開しています。

4. モータの基本原理と構造,動作の仕組み

モータは基本的に,磁石の「異極が引き合う性質」と「同極が反発する性質」を利用して回転しています。
たとえば,ラジコンなどで利用される小型モータをイメージしてください。小型モータのなかには,回転軸がついたコイルとそれを両側から挟むように配置されたN極とS極の永久磁石があります。

モータに電気を流すと,コイルは電磁石になります。コイルがN極とS極を持った磁石に変化すると考えるとわかりやすいでしょう。

すると,N極の永久磁石とコイルのN極が反発するのとともにS極の永久磁石とコイルのS極が反発します。これは同時に,N極の永久磁石とコイルのS極が引き合い,S極の永久磁石とコイルのN極が引き合うということでもあります。
これによって,コイルは回転軸を中心にして180度回転するのです。

ところが,これだけではコイルは180度回転した状態で止まってしまいます。N極の永久磁石とコイルのS極が引き合い,S極の永久磁石とコイルのN極が引き合った状態のままになってしまうからです。さらに180度まわして回転軸を360度まわすにはどうすればいいでしょうか。

そこでコイルには流す電気の向きを変えることで,N極とS極の位置が入れ替えます。
先ほどの止まったままの状態では,N極の永久磁石とコイルのS極が引き合い,S極の永久磁石とコイルのN極が引き合っていました。そこでブラシを通って,「整流子」と呼ばれる部品によって電気の流れる向きを変え,コイルのN極とS極を入れ替えます。
すると,永久磁石のN極とコイルのN極が反発し,永久磁石のS極とコイルのS極がそれぞれ反発します。それと同時に永久磁石のN極とコイルのS極が引き合い,永久磁石のS極とコイルのN極が引き合います。これによって,コイルはさらに180度回転します。これで360度回転しました。

モータはこの一連の動きを繰り返すことで,連続的に回転しているのです。
ここからは「動力源としてのモータ」と「制御装置としてのモータ」を紹介します。

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5. 動力源としてのモータの種類

動力源としてのモータの種類

設備や機器の動力源としてのモータには,供給電源によって主に「DCモータ」と「ACモータ」の2種類に分けられます。

DCモータ(直流モータ)とは?

「DCモータ」とは,直流電気を流すことで動くモータです。
日常でよく使う電化製品から工場で使う設備までさまざまなものに使われています。
そして,このDCモータには「ブラシ付きDCモータ」とブラシのない「ブラシレスDCモータ」の2種類があります。ブラシとは,コイルに電気を伝えるための部品です。

ブラシ付きDCモータは内側にコイル,外側に永久磁石があり,ブラシを通して直流の電気を流すことでローター(回転軸)を回転させるモータです。これが最初に紹介したシンプルな仕組みでできているモータで,ラジコンや模型などに利用されています。

このモータは,基本的に電圧に比例して回転速度が上がるのが特長です。
たとえばブラシ付きDCモータを乾電池で動かす場合,2本つなぐときのほうが1本のときよりも速く回転します。ただし,コイルに流す電気の向きを変える整流子とカーボンブラシは常に接触しているため,長時間,動作すると摩耗するため,定期的なメンテナンスが必要になります。

一方のブラシレスDCモータ(BLDCモータ)は内側に永久磁石,外側にコイルがあり,電流の制御回路を通してコイルに電気を流すことで,内側の永久磁石を回転させるモータです。
ブラシがないためメンテナンスの頻度を抑えられるだけでなく,ブラシの摩耗カスが出ないのでクリーンな環境で使えるのが特長です。ただし,モータの外部に電流の向きを制御するための回路が必要であり,ブラシ付きDCモータと比較するとコストがかかります。

モータの種類
メリット デメリット
ブラシ付きDCモータ 低コスト 劣化が早い
ブラシレスDCモータ 長寿命 高コスト

ACモータ(交流モータ)とは?

「ACモータ」とは,交流電気を流すことで動くモータです。外側にコイル,内側に「かご形」のローターがあります。
ACモータの特長は,整流子やブラシ,制御回路が不要であることです。シンプルな構造でコストを抑えて製造できるため,扇風機や掃除機などの家電,水をくみ上げるためのポンプや搬送用のコンベア,産業用機器など,さまざまな用途に使われています。

6. 制御装置としてのモータの主な種類

機器や設備の動作を細かく制御するためのモータでは,「ステッピングモータ」と「サーボモータ」が代表例でしょう。

ステッピングモータ

ステッピングモータ

ステッピングモータは,一定の角度(位置)の分だけローターが回転するモータです。

アナログ時計をイメージしてください。1秒ずつ秒針が動いています。このように決められた角度の分だけ動くよう制御できるのがステッピングモータです。アナログ時計のほかプリンターやエアコンのルーバー,ATM,券売機,自動改札機のゲートシステムなどに使われています。

ローターを正確な角度の分だけ回す仕組みはシンプルです。ステッピングモータのローターには何本もの溝が入っています。そしてモータに電気を流して,意図した溝の分だけローターが動いたら電気を止めるのです。これによってローターは正確な角度の分だけ回転して停止します。

たとえば,二相ステッピングモータには,一般的に200本の溝が入っています。一回転360度を200分割にするので、溝1本あたりで動く角度は1.8度になります。仮にモータを18度回転させたければ,モータに電気を流して溝10本分のローターが動いたら電気を止めることになります。

ステッピングモータを制御するには,コントローラーがなくてはなりません。コントローラーの役割は,ステッピングモータにどれだけ動くかを指示する信号を送ることです。まず,前提として電気のオンからオフまでをセットで1パルスと数えます。そして,コントローラーがステッピングモータに1パルスの信号(パルス信号)を送ると,ローターは溝1本分を回転して止まります。

先ほどの例のように,200本の溝が入っている二相ステッピングモータを18度だけ回転させるとしましょう。この場合はコントローラーから10パルスの信号を送ります。すると,信号を受信したステッピングモータは溝10本分にあたる18度回転して止まります。

このように,ステッピングモータの制御にはコントローラーが必要です。

サーボモータ

サーボモータ

サーボモータは,ステッピングモータと同じく,意図した角度の分だけローターを回転させることを目的としたモータです。ただし,サーボモータとステッピングモータには,明確な違いがあります。

サーボモータのローターには溝がありません。そのため1.8度ずつローターを回転させるといったような制約がないため,分解能の高いセンサを使えば100万分の1度といったような精密な角度でローターを止めることができます。

その制御に必要なのがセンサです。サーボモータでは,このセンサがローターの回転位置を正確に把握するため,意図通りの角度で停止させることができます。また,停止したあとも監視を続け,停止角度がずれた場合はすぐに自動で修正するように制御しています。

3. 終わりに

以上,「モータの役割と種類,歴史と動作原理や構造」について,ご紹介致しました。
モータの特長を理解することで,最適なモータ選定・装置性能の向上につながります。
山洋電気では各種モータを取り扱っています。モータ選定に関してご不明な点がありましたら,お問い合わせください。

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