近年,経済成長にともない世界の生産国であった中国においても人件費が高騰し,従来の労働集約的なビジネスモデルにも陰りがみえています。そのようななか,これまで専用機や手作業で対応していた工程を自動化する「省人化」への動きが加速しています。また,生産体制も規格品の大量生産から多品種少量生産へと変化しており,FA機器メーカー各社には,品質と生産量の維持を支援する新たな「自動化ニーズ」への対応が求められています。
各種自動機,組立機などの開発・製造を手掛けるI社では,このほど中国の生産現場における省人化ニーズ拡大を受け,より汎用性の高い新たな自動組立機の開発に乗り出しました。しかし,開発に着手した直後に,技術的な問題に直面することに。
というのも,新モデルでは単純に上から組み付けるだけでなく,複雑な構造のものに横や斜めから部品を組み付けるために,テーブルを傾けるチルト機構を取り入れることにしたものの,最適なシステムを見いだせずにいたのです。最も安価で簡単な方法として,最初に試作をおこなったエアー制御では,テーブルを傾ける動きが雑で思うように精度を出せませんでした。
テーブルを傾ける機構には,決められた角度に素早く,高い精度で停止することが要求されます。エアー制御ではその精度が不十分だったため,I社は違う機構を検討していました。同社開発部担当部長K氏はこう語ります。
「サーボシステム,ステッピングシステムともにメリット・デメリットを抱えており,いずれも一長一短でした。サーボシステムには,高い精度が期待できますが,パラメータ設定が複雑なうえ価格が高くなってしまいます。ステッピングシステムには,コストメリットがある一方で,脱調が心配でした。組み立てるものが変わると負荷が変わってしまうなか,マージンを取るだけで脱調が防げるのか分かりませんでした。それに,容量を大きくすると装置が大きくなってしまいますし…装置の要となる機構なので,なんとかして解決策を見つけだす必要がありました。しかも,これらの課題を同時に解決する機構を探していました。」
K氏はこうした課題を,ほかの製品で取引のあった山洋電気の営業担当者に相談しました。これに対して担当者は,クローズドループステッピングシステム「SANMOTION Model No.PB」を提案。「サーボシステムとステッピングシステムの“いいとこ取り”により,求められる性能を満たすことは十分可能」という話に強く興味を持ったK氏は,さっそく選定を依頼しました。
後日,選定結果を見たK氏は,意外にモータサイズが小さいことに驚きます。
「思ったよりモータが小さかったので不安になり確認したところ,SANMOTION Model No.PBは低速時や停止時のトルクが高いので,このような用途ならサーボモータよりも小さいサイズにできるということでした。」(K氏)
さらに,K氏が着目したのは,ステッピングシステムの弱点である“脱調”が起きないという特長でした。
「サーボと同じようにエンコーダで位置決め制御をおこなうクローズドループ制御なので脱調しないですし,ステップと同じように短い距離を素早く動き,ピタッと位置決めができると思いました。また,位置補正制御があるので,組み立てるものの負荷が変わっても位置ズレが発生せず,高い精度が期待できます。」(K氏)
また,ステッピングシステムと同じように複雑なパラメータ設定が不要な点も大きなメリットでした。
「さらに,推奨されたドライバはプログラム機能つきで,外部からポイントをI/Oで指定することで,簡単に位置決めができるというすぐれものでした。汎用I/Oで簡単に制御できるので,すぐに試作に取り組むことができました。上位への負担も軽減できますし,なにより設計の負担も減ります。」(K氏)
実機試験の結果,サーボシステムとステッピングシステムの長所をあわせ持った動作特性により,装置の信頼性アップおよびサイクルタイムの短縮が確認できました。さらに,これらの特長に加えサーボシステムに比べて大幅にコストを抑えられる点も,K氏の導入決断を後押しました。
こうして,最小限のコストで最大限の性能アップを見込めると判断したI社は,ほどなく「SANMOTION Model No.PB」の採用を決定しました。K氏はこう語っています。
「従来の製品とは一線を画す製品開発に成功し,お客さまの生産ラインの効率化やスピードアップに貢献することができ,満足しています。」
ステッピングモータについて詳しくは「ステッピングモータとは? 仕組み,種類,使い方(駆動方式・制御方法),メリットや特徴を解説」もご覧ください。
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