心臓外科・人工透析分野の医療機器製造を手掛けるM社では,ある体外循環装置の仕様について,いくつかの課題を抱えていました。
従来の装置では,クランプ機構にソレノイドまたはステッピングモータの2つの方式を用いていました。M社設計開発部のH部長はこう語ります。
「クランプ機構とは,気泡が発生した際にグリッパを閉じ,チューブの気泡送出を遮断する安全機能です。ソレノイドの場合ではロック解除を手動でおこなう必要があるために,現場で手間が発生していたのです。」
またグリッパの開閉を自動化したステッピングモータ駆動方式では,カップリングやボールねじといった部品点数が多いため,装置の小型化を難しくする要因になっていました。国内の医療機関には医療処置室の広さに余裕がないケースが多く,小型化は手狭なスペースを有効活用するために欠かせない改善要素のひとつであり,M社にもたびたびユーザーから要望が寄せられていたといいます。
「安全性の確保に重点を置いて開発してきましたが,装置の差別化を図るためには,医療現場のニーズを細かく取り込んでいく必要があります。グリッパ開閉の自動化による操作性向上と小型化の両立を実現するため早急に改善が必要でした。」(H氏)
体外循環装置の改善に向けて情報収集を続けていたH氏は,とある展示会で各種モータシステムを出展していた山洋電気のブースを訪れ,こうした課題を相談しました。
山洋電気の担当者はH氏より要件を詳細にヒアリングしたうえで,ボールねじとモータが一体型の「5相リニア駆動ステッピングモータ」を用いたオートクランプ開閉機構を提案します。この提案はH氏を強く惹きつけました。
「ステッピングモータ駆動方式なのでグリッパの自動開閉を実現できるとともに,ボールねじがステッピングモータ内部に収まっているため,従来の構成に比べ機構が簡素化され2/3程度の小型化が見込めました。これで,安全性の確保と操作性の向上が両立できると確信しました。また,部品点数が削減されるので,装置メンテナンスの際も大きなメリットを得られると考えられました。」(H氏)
自動化と小型化という最大の課題をクリアできそうだと確信したH氏は,さっそくサンプルを取り寄せて評価をおこないました。ほどなく,山洋電気製「5相リニア駆動ステッピングモータ」の採用を決定し,試作機の開発に乗り出します。
山洋電気はM社の要望に応じ,カスタマイズ対応をおこない,装置開発を全面的にサポートしました。
「モータ組み込みの際には,カスタマイズ対応をしていただき,モータを直接装置に取り付ける設計にすることで全長をさらに短くでき,大幅な小型化が可能となりました。
また,部品の想定される故障リスクを事前に提出していただいたことで,安全装置の検討を早い段階から始めることができました。安全性が最優先となるため,故障による事故防止に十分な対策を講じられたことは,なにより重要なメリットでした。的確なサポートで開発に貢献していただきました。」(H氏)
のちに満を持してリリースされた,体外循環装置の新モデルは,ユーザーより高い評価を得ることに成功しました。H氏はこう語っています。
「豊富なラインアップに迅速な納品,さらにきめ細かな技術協力のおかげで,開発期間も大幅に短縮されました。新モデルは性能面において十分に差別化を図ることができました。山洋電気にはこれからもいろいろと相談に乗ってもらいたいと思います。」
ステッピングモータについて詳しくは「ステッピングモータとは? 仕組み,種類,使い方(駆動方式・制御方法),メリットや特徴を解説」もご覧ください。
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