


国内外において,市場競争が激化する一方のプリンタ市場。メーカー各社は“印刷品質”はもちろん,“低コスト”“高速印刷”といった厳しい市場ニーズを満たすため,多様な新機能の開発とともに,プリンタ本体の基本スペックについても日夜,性能向上に向けた挑戦を続けています。
こうした背景から,プリンタの性能向上に欠かせない部品,特にステッピングモータの選定は,印刷速度や製造コストに直結する部分だけに,従来にも増して重要な要素となっています。
業務用プリンタの分野で高い評価を得ている情報・通信機器メーカーG社。近年シェアが伸び悩んでいることを受け,主力プリンタ製品のフルモデルチェンジを決定。次期モデル投入のための開発に着手していました。
開発チームは基本性能の抜本的見直しを図るため,現行機種の検証を実施しました。その結果,紙送り部分に使用されているステッピングモータの特性では次期機種に求められる印刷速度を実現できないと判断しました。
実は,G社では長い間,プリンタの複数機種において,同一のモータを使用していました。製造コストの抑制が求められる中で,大量調達によるコストメリットが大きく,また,同じモータを使い続けることで,限られた期間での開発・設計に有利だったのです。
しかし,ステッピングモータはプリンタの基本性能を大きく左右する部品です。開発チームは新モータを選定するためさらに検証を続けましたが,ここで大きな問題に突き当たります。G社企画開発部のW氏はこの問題についてこう語ります。
「現行モータには取り付け面ダンパーと呼ばれるゴムダンパーが付属していましたが,なぜこの部品が必要であったのか,その理由が分からなかったのです。オプションの付加により当然コストは高くなります。元の開発者はすでに退社しており選定理由は分かりませんでした。」
開発チームは,次期モデルに搭載するステッピングモータの要件を整理しました。プリンタの印刷速度向上を実現するためには,モータのトルクアップが必須となりますが,“最適なトルク”を決める判断基準を持っていませんでした。トルクを高めるために,モータのサイズを大きくすればコストアップにつながる可能性があるので,判断基準なしには決められません。また,ゴムダンパーの必要性についても議論が交わされました。判断に窮したW氏は現在採用しているモータのメーカーに相談しましたが,
「送られてきたのは周波数‐トルク特性図だけで,解決方法に関する回答はありませんでした。これではなんの役にも立ちません。開発の期限も決まっている中で,早急になんらかの解決策を見つけ出さなければなりませんでした。」
問題解決のための情報収集を続けていたW氏は,とある展示会で山洋電気のブースに立ち寄ります。他製品で山洋電気の冷却ファンを採用していることを知っていたW氏は,開発チームが抱える問題について相談を持ちかけます。そこで受けた回答は,「最適なモータ特性を決めるにはモータ単体だけでなく,装置の使用条件に合わせた検証が必要。」というものでした。
「現行モータの特性をふまえたうえで,次期モデルに最適なモータの提案をおこないたいとの申し出を受けました。この提案は非常にありがたいものでした。」(W氏)
早速,山洋電気の営業担当は,設計担当者を同行しG社を訪問,次期モデルに最適なモータを選定するための情報・要求仕様などの打ち合わせをしました。さらに,現行モータとダンパーの解析試験に協力。実機と同等の負荷イナーシャを取り付けて擬似実機試験を実施しました。
「トルク特性」「速度変動(振動)特性」「温度特性」を測定し,現状の問題点と課題を明らかにしていきます。その結果,開発チームが必要性を測りかねていたゴムダンパーも,使用領域におけるトルク(振動)特性を改善するために取り付けたことが判明しました。山洋電気による解析結果は次のとおりです。
これらの解析結果によって,G社は次期モデルに必要なモータ特性の明確化にいたります。
山洋電気は,まず必要(要求)トルクを満たし,発熱面にも考慮したモータの設計に着手しました。そして量産時のリスクを回避するために,機械加工や組み立て工程の公差内で発生するバラツキ,経年変化やオイルの状態によって生じる負荷のバラツキを考慮し,それに応じた,最大・ターゲット・最小トルクのモータを試作し納品しました。これは,G社にて試作モータを評価する際に,それぞれの測定結果からわずかなモータ個体差から生じる影響を解析し,両社の量産品の設計にフィードバックするためです。
試作検証をおこなった結果,現在と同じサイズのままで,以下の性能向上が図れるという結論にいたりました。
速度変動(振動)の大幅な低減は,モータ自体の性能向上もさることながら,使用領域をモータの振動領域から外して使用するという山洋電気からの提案(*)によって実現したものです。それにより,ゴムダンパーが必要なくなりました。
「まさにステッピングモータを知り尽くした提案でした。単に既成の製品を当てはめるのではない,当社の要件にそったきめ細かい検証は驚きの連続でした。」(W氏)
(*)ステッピングモータは,モータの特性によってある速度だけ振動が大きくなります。その速度を避けて使用すれば,低振動で動作させることができます。
G社は山洋電気製ステッピングモータの新規採用を決定しました。モータサイズはそのままにトルクUPを実現し,印刷速度を大きく向上させることに成功しました。また,オプションのゴムダンパーが不要になったことでモータコストも低減しました。
W氏はこう語ります。
「ステッピングモータに関する潤沢な知識,測定ノウハウ,そして当社の視点に立った的確なサポートによって,山洋電気には大きな力添えをいただきました。」
後に,G社は無事に次期モデルのリリースをおこないました。多彩な機能に加え,印刷速度の大幅な高速化はユーザーより好評価を獲得し,業務用プリンタ市場において大きな存在感を示すことができたといいます。
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