3Dプリンタの開発・製造をおこなうT社は,市場の拡大を見越しハイエンドの3Dプリンタ開発に力を入れていました。設計部グループリーダーU氏はこう語ります。
「近年,3Dプリンタ市場は盛り上がっています。2009年にFDM(熱溶解積層法)*の特許の期限が切れ,2014年にはハイエンドの3Dプリンタに多いSLS(粉末焼結法)*の特許の期限も切れることから,参入するメーカーは増え続けています。
アメリカでは3Dプリンタの研究開発促進のための補助金プログラムが創設されていますし,ヨーロッパでも同様の補助金プログラムが設立される予定です。それにともない,今後もますます市場が拡大することが予想されます。」
* FDM(Fused Deposition Modeling):熱溶解積層法。樹脂を高温で溶かし積層させることで立体形状を作成する。
* SLS(Selective Laser Sintering):粉末焼結法。樹脂や金属の粉末にレーザーを照射して焼結させる。
製品の試作・評価工程を大幅に削減できることから,T社では,ユーザーの開発期間を短縮し,競争力アップに貢献する3Dプリンタの開発に日々取り組んでいました。
「厳しい競争を勝ち残っていくため,さらに精度の高い3Dプリンタを開発する必要がありました。3Dプリンタにおける精度とは,X-Y軸のスムーズな動きとノズル開閉の同期性に起因します。現行機では,PLCとパルス列I/Oでサーボシステムを構成し,メカ的に精度をあげる努力をしていたのですが,それも限界でした。精密で高品質な造形を実現するために,これまでのX-Y軸各1本のアクチュエータではなく,ガントリ構造の採用を考えていましたが,そのためには,今まで以上に同期性能が高く低振動なサーボシステムが必要でした。」(U氏)
また,高速化についても課題を抱えていました。
「造形速度を向上させることで,サイクルタイムを短縮したいと考えました。ですが,単純に速度アップしようとすると,加速・減速するときに振動が発生してしまいます。造形品質を落とすわけにはいきません。
さらに,他社との差別化を図るためにも現行機種と装置サイズは変えずに,造形スペースを大きくしたいと考えていました。」(U氏)
より短時間に高品質で高密度・高精細な造形を実現するにはどうすればいいのか,課題は山積みでした。
U氏は課題を解決するために訪れた展示会で,山洋電気にこれらの課題を相談しました。後日T社を訪問し,詳細な要件を確認した山洋電気の営業担当は,EtherCATインタフェース搭載のACサーボシステム「SANMOTION R ADVANCED MODEL」を提案します。
「提案いただいたACサーボシステムは,オープンネットワークのEtherCAT通信仕様でした。EtherCATの通信周期が最大0.125msecの高速通信なので,位置指令が細分化され装置の動作がスムーズになります。また,位置フィードバック同期機能により多軸同期の制御性が向上するとのことでした。さらに,ジャークプロファイル機能により,加速・減速,停止時の振動を低減し,位置決め精度の向上も図れるそうです。タクトタイムの短縮にも期待が持てました。」(U氏)
T社は,さっそく実機にて評価してみることに。
「評価をおこなったところ,ヘッドユニットの精度を30%向上することに成功。高速かつ高精細な造形を実現できると確信しました。また,現行機に比べ駆動部分が小型になったので,現行機と同じサイズで造形スペースを15%大きくすることに成功しました。」(U氏)
U氏は今後の展開についても語ります。
「EtherCAT通信の伝達速度と接続方式の自由度により,今後顧客のニーズがあれば,1つのマスタコントローラで,数台の3Dプリンタと接続し,同時に違うパーツを造形できる機種の開発を考えています。今回開発したのは最上位機種でしたが,市場ではパーソナルユースも広がっています。山洋電気には,当社が今後開発を計画している個人向け上位機種に最適なクローズドループステッピングシステムやDC48V入力のACサーボシステムなどさまざまなラインアップがあるとのことでした。今後も山洋電気の提案に期待したいです。」
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