N社は,大手医療機器メーカーに対し血液透析・腹膜透析や,輸液関連,および血液浄化装置などのOEM供給をおこなう医療機器メーカーです。近年,国内外で人工透析治療へのニーズが高まる中,拡大が見込まれる市場における安定したシェアの確保が大きな課題となっていました。
人工透析装置は患者の生命維持に直結するものであるため,何よりも信頼性が重要で,装置の安定稼動や事故リスクを低減した長期間の耐久性が求められます。装置の故障や不具合の発生は患者の健康を脅かすだけでなく,復旧までの待ち時間が患者の負担や,病院の損害にもつながります。
また,主に病院という使用環境や長期間にわたり使用する患者のストレス緩和のために装置の低騒音化や低振動化など,N社にはさまざまな要求が寄せられていました。
こうした市場ニーズに応え続けるためには各モデルで常に最新スペックの製品をリリースしていく必要があります。そこで,部品にも装置のサイズや形状にあわせたカスタム対応が求められます。
しかし,装置のサイズや形状に合わせて,その都度部品加工をおこなうには非常に多くの工数がかかるので,部品メーカーも細かい注文には応えてくれません。こうした状況が開発期間を長くする原因の一つとなっていました。
「製品の開発に際して,メーカーとの間で何段階かの試作・評価がおこなわれます。試作機の納期は決まっているため,設計者の立場からいうと,部品選定にかける時間はできるだけ短くしたいというのが本音です。なぜなら,手戻りがある場合でも十分な再試作の時間を確保したいからです。」
N社・設計開発部のK氏はこう語ります。競合がひしめく中で,他社に少しでも差を付けるためには,なによりも開発リードタイムの短縮が必要でした。
ある時,山洋電気の営業担当に透析装置の新製品開発について相談したK氏は,振動を大幅に低減でき,コストメリットもある製品として,「3相ステッピングモータ」を提案されました。
「透析装置はヒトの体内循環に合わせ,非常に低速でなめらかに動作する必要があります。振動や速度ムラは圧力変化として患者さんに影響するため,可能な限り抑えたい。しかし,理想とする低振動駆動は,2相ステッピングモータでは実現できず,かといって,5相ステッピングモータではコスト的に難しいという状況でした。ですが,この3相ステッピングモータをマイクロ駆動させる提案で,なにかこの相反する課題を解決する糸口をつかんだ気がしました。」(K氏)
一般的に,2相ステッピングモータは安価ですが動作が粗く,5相ステッピングモータは動作が細かいが高価という特徴があります。その点,山洋電気の3相ステッピングシステム「SANMOTION F3」は,同社のドライバの機能である“マイクロステップ駆動”(*)により,コストメリットを出しながら5相ステッピングモータと同等の低騒音・低振動を実現できるとのこと。
(*)マイクロステップ駆動(バーニア駆動):巻線への電流を単純なON/OFFではなく,電流比率を細かく変えていくことで,より細かいステップ角度を得る手法。
さらに,3相ステッピングモータを製造販売しているメーカーは,国内ではまれで,山洋電気は貴重な1社だったことも,K氏の決断を後押ししました。こうしてN社は装置の基本性能を向上するソリューションとして,「SANMOTION F3」の評価導入を決定。
実際にモータ単体で駆動させてみると,騒音・振動ともに期待通りのレベルでした。早速N社は,新型の透析装置に「SANMOTION F3」を採用。しかし,最初の試作機の評価では騒音の目標値を満たしていないと指摘を受けました。
装置に組み込んだ際に他の部品との共振点が重なったのが原因です。N社はすぐに新しい試作機の製作に取りかかりましたが,そこでK氏を満足させたのは,山洋電気のスピーディなフォロー体制でした。
「シャフト形状のカスタム加工に対応してくれましたし,評価段階に手戻りが発生した際も,試作モータを2~3日という速さで即再手配してくれました。これは他社にはない対応でしたね。そのおかげで,製品評価に十分な時間が確保できました。」(K氏)
山洋電気がN社に対し,評価用モータをタイムリーに提供できた背景には,これまでさまざまな企業にカスタマイズをおこなってきた経験と実績がありました。この後も,試作製作時のトライ&エラーに対し,その都度,迅速に対応し,N社の開発期間の短縮に貢献しました。
N社はこうした試作・評価を経て,2008年より新たな人工透析装置の量産を開始しました。そして,2008年~2009年の2年間,品質・納期においてトラブルが皆無という実績を残しています。ユーザーからの高評価を得たN社の人工透析装置は海外でも採用され,2010年度も受注金額を伸ばしています。今回の採用についてK氏はこう総括します。
「最適なモータの提案から部品の迅速な納品など,山洋電気の二人三脚ともいえるサポート体制は,当社の信頼性向上に大きく貢献してくれました。」
N社の信頼性は,国内外の市場において今後も大きな競争力を確保していくでしょう。
ステッピングモータについて詳しくは「ステッピングモータとは? 仕組み,種類,使い方(駆動方式・制御方法),メリットや特徴を解説」もご覧ください。
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