成熟期に入ったとはいえ,スマートフォンやタブレットPCなどの普及により,さらなる成長が見込まれる半導体市場。しかし,日本企業は依然として苦戦を強いられています。市場競争が過酷さを増すなか,技術的優位性の確保や新たなビジネスモデルの構築はもとより,厳しいコスト競争下における生き残りが火急の課題となっています。
特に半導体製造装置に求められる技術面でのハードルが一段と引き上げられ,従来の方法ではこれ以上の効率アップとコストダウンの要求に応えられなくなっています…
Y社は,各種一般産業用機械から先端分野の半導体製造装置,検査装置などの開発・製造・販売を手掛ける産業機器メーカーです。
同社では,ある半導体製造装置の新モデル開発において,大きな課題に直面していました。というのも,精度向上とコスト削減という市場ニーズに対し,現行モデルでは十分に応えられなかったからです。
この装置では,吸着機構が必要なためボールスプラインの中にエアーを通す必要があり,モータを同一軸線上に配置できませんでした。そのためタイミングベルトを使用していましたが,そのタイミングベルトに課題がありました。ベルト機構はわずかな誤差でテンションが大幅に変化するため,適切なテンションの維持に苦労していたのです。ベルトを締めすぎると負荷が大きくなったり,メカ機構に悪影響を及ぼしたりします。かといって緩めるとベルトが振動し,最悪の場合は外れてしまうケースもあります。さらに,長時間動作による経年変化などにより,精度が劣化しやすいという弱点も。
そこで同社はベルト駆動に代わり,「中空軸モータ」の利点に着目します。
「中空軸モータ」は,モータのシャフトが中空になっているので,中空内径にボールスプラインを取り付けることによってタイミングベルトやギアなどの大がかりな伝達機構が必要なくなります。またベルトの弱点から解放されることで,大幅な高精度化・機構の簡素化・省スペース化,およびコストダウンが期待できます。しかし,中空軸モータの選定も簡単にはいきませんでした。当時のようすについて,同社開発部設計チームのH氏はこう語ります。
「モータは性能とコストダウンの要となる部分でしたから,選定には慎重を期しました。しかしながら,Webやカタログでいろいろ情報収集をしても,なかなか要求を満たす製品がなかったのです。」
後日,仕様確認のためにY社を訪れた山洋電気の担当者は,H氏らより要求仕様を詳細にヒアリングしました。
現行モデルの図面を持ち帰り,まずは部品ごとの負荷イナーシャを計算してモータを選定することにしました。その結果,「56mm角2相ステッピングモータ」をベースにカスタマイズした中空軸タイプのモータ(中空径φ8mm)を提案します。
「打ち合わせから提案までの期間は1週間程度と,非常にスピード感ある対応でした。また,現行で使用しているボールスプライン機構をそのまま使えるように,モータをカスタマイズしていただきました。」(H氏)
続けてH氏らは,提案されたモータについて実機を用いて各種性能の試作評価を実施することにしました。
検証の結果,ステッピングモータを中空軸タイプにすることによるさまざまなメリットが確認できました。
まず,中空内径にボールスプラインを通すことで,機構の大幅な簡素化を実現しました。
また,ベルトのテンションを維持するためのメンテナンスが必要なくなり,ベルトの劣化によるトラブルも未然に回避できるようになりました。
仮に故障したとしても,ベルト駆動の場合に必要だった手順―ベルトを取り外すために関連部品を外して交換し,ベルトテンションを調整し,部品を組み付ける―が,交換のみで済むため,装置の停止時間が短く済み,メンテナンス工数を大幅に削減することができました。
また,モータの回転がダイレクトに伝わることで,位置決め精度も飛躍的に向上。さらに中空軸にしたことで,ボールスプライン1本で直動動作と回転動作がおこなえるようになりました。
「従来の装置では直動と回転でボールスプラインを分けていましたが,1本に両機能を搭載できるので省スペース化でき,結果的に30%もの装置コストダウンに繋がりました。」(H氏)
こうして詳細な検証の後,Y社は「中空軸モータ」の正式採用を決定。
H氏は今回の導入についてこう語っています。
「モータのリプレイスにより,新モデルにおいて期待どおり精度の向上とコストダウン,さらにメンテナンス工数の削減を実現できました。山洋電気には,最適なモータの選定からカスタマイズまで,システムを理解したうえできめ細かく対応していただきました。」
Y社の新モデルはリリース後,期待通り大きな市場優位性を確保し,順調にシェアを拡大。グローバル競争下における半導体製品のコスト削減と品質確保に大きく貢献しています。
ステッピングモータについて詳しくは「ステッピングモータとは? 仕組み,種類,使い方(駆動方式・制御方法),メリットや特徴を解説」もご覧ください。
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