医療施設や病院では,治療を行い患者さんの命を守るため,たくさんの装置や設備が存在しています。そしてそれらが安定して稼働するためには,電源の確保が極めて重要です。予期せぬ停電などの電源トラブルによって停止してしまうことは,患者さんを危険にさらしてしまうため,避けなければなりません。
そのためには,UPS(無停電電源装置)が非常に重要な役割を果たします。
この記事では,病院・医療施設における代表的なバックアップ対象装置・設備として,人工透析治療装置などの医用電気機器,手術灯,データ管理を伴う装置,それぞれに適したUPSや求められる性能・機能について詳しく解説します。
※人命に直接関わる医用電気機器などに使用の場合には,運用,維持,管理に特別の配慮が必要となります。
当社は,日本工業規格の「病院電気設備の安全基準(JIS T 1022)」と,日本電機工業会資料「無停電電源装置(UPS)を医療機関へ適用する場合の技術指針(JEM-TR 233)」に沿って提案を行っておりますので,安心してご相談ください。詳しくは4項をご覧ください。
医療施設や病院には,患者さんの診断,治療,また生命に関わる医用電気機器が多数存在します。例えば,集中治療室(ICU)で患者さんの生命維持に必須とされるモニタリングシステム,人工呼吸器や人工透析治療装置のように,患者さんの生命を直接支える装置などがそれに該当します。また超音波診断装置も医用電気機器です。これらの機器は,患者さんの健康状態を正確に把握し,迅速かつ適切な治療を行うために不可欠です。
病院や医療施設では,日々数多くの患者さんが診断や治療を受けています。特に手術室や集中治療室(ICU)にいる患者さんのように,緊急度が高く生命に関わる機器を使用している場合,少しの電源トラブルが装置停止を引き起こし,患者さんを危険にさらしてしまいます。また装置停止とまではいかなくとも,医用電気機器に損傷を与える原因にもなり得ます。
UPSは,停電などの電源トラブルが生じた際に電力供給をおこない,これらのリスクを抑える役割を果たす,非常に重要な装置と言えます。
※人命に直接関わる医用電気機器などに使用の場合には,運用,維持,管理に特別の配慮が必要となりますので当社にご相談ください。
医用電気機器の規模に応じて,適切なサイズのUPSを選択する必要がありますが,10kVA~20kVA前後になることが多いです。
人工透析治療装置の場合,病院の規模によりますが,透析治療装置は10台から15台など複数台で使用されます。UPSの出力容量[kVA]は透析治療装置の定格容量[kVA/台]の台数分が基本となりますが,突入電流も考慮する必要があります。
バックアップ時間は,自家用発電設備と併用していることが多く,発電機が起動する40秒を補うために,10分程度が必要な場合が多いです。発電機を併用できない場合は,停電などの電源トラブルが復旧するまでの,数十分から数時間のバックアップが必要です。
人工透析治療装置などの医用電気機器は,いかなる時も停止が許されない設備です。停電などのいざという時に,医用電気機器に電力供給する役割を果たすUPSが故障しているなどとなっては,元も子もありません。
並列冗長タイプのUPSでしたら,万が一UPSに故障が発生した際でも他のUPSから給電を続けることができ,安心です。
人工透析治療装置などの医用電気機器は,停電時無瞬断で電力を供給することが重要です。例えば停電の際に一瞬でも電力の供給が止まってしまい,医用電気機器が停止,もしくは正常な動作を保てなくなってしまった場合,患者さんを危険にさらしてしまいます。
常時インバータ給電方式・パラレルプロセッシング給電方式などの,無瞬断で電力供給ができるUPSの選定が非常に大切です。
※人命に直接関わる医用電気機器などに使用の場合には,運用,維持,管理に特別の配慮が必要となりますので当社にご相談ください。
停電によって手術灯が消えてしまった場合,当然ながら手術を継続することができず,患者さんを危険にさらしてしまいます。そのため,手術中に停電などの電源トラブルが起こった場合でも,照明が点き続けられるよう,UPSで電力を供給する必要があります。
手術灯の場合,1kVA未満であることが多いです。
一方,自家用発電設備が無い場合のバックアップ時間は,手術が終了するまでの30~180分など,長時間バックアップが必要になります。
手術灯の場合,一度停電してしまったとしても,手術が安全に完了するまで電力を供給する必要があります。周囲環境により自家用発電設備が設置できないケースでは,30~180分など長時間バックアップできるUPSを選定する必要があります。
長時間バックアップのUPSは,大きなバッテリーが必要になり,UPSの蓄電池盤も体積が大きくなることが多いです。一方院内のスペースは限られていますので,UPSの小型・省スペース化も同時に求められます。
リチウムイオン電池搭載のUPSなら,長時間バックアップかつ,省スペース化を同時に実現することができます。
▲体積・容積比較〔鉛UPS-リチウムイオンUPS〕
こちらの記事もおすすめ:UPSのリチウムイオン電池と鉛蓄電池を徹底比較!
これらの設備にUPSが必要な理由は,医療データにアクセスできなくなったり,データを損失することが,患者さんの生命と健康に影響を与えてしまうことにもつながるからです。
例えば,電子カルテシステムが停電や電源トラブルでアクセスできなくなった場合,患者さんの重要な医療情報を医師が確認することができず,診断や治療の遅延が発生する可能性があります。またデータの損失は,患者さんの治療履歴や検査数値等を参照することができず,適切な継続的治療を困難にしてしまいます。
これらのリスクを避けるために,UPSは必要不可欠だと言えます。
装置の種類と規模に応じて,適切なサイズのUPSを選択する必要がありますが,1kVA~3kVA,大きくても5kVAで十分な場合が多いです。
バックアップ時間は,自家用発電設備と併用している場合は,発電機が起動する40秒程度を補うために,10分程度。発電機を併用できない場合は,停電などの電源トラブルが復旧するまでの,数十分から数時間のバックアップが必要です。
院内の限られたスペースや検査装置の側に置くUPSは,小型・省スペースなものが求められます。リチウムイオン電池搭載のUPSなら,鉛蓄電池UPSに比べて省スペース化を実現することができます。
バッテリー寿命が10年※のリチウムイオン電池UPSであれば,バッテリー寿命が2~5年の鉛蓄電池に比べて,バッテリーメンテナンスの回数を減らすことができ,UPSを管理する際の負担が軽減します。
こちらの記事もおすすめ:UPSのリチウムイオン電池と鉛蓄電池を徹底比較!
>
※ 周囲温度が25℃の場合。
お願い
「病院電気設備の安全基準(JIS T 1022)」と「無停電電源装置(UPS)を医療機関へ適用する場合の技術指針(JEM-TR 233)」は改版がありますので,必ず最新版の原典にてご確認ください。
ご承知のとおり,日本工業規格「病院電気設備の安全基準(JIS T 1022)」があります。この規格は医用電気機器などの使用上の安全確保のため,病院,診療所などに設ける電気設備のうち,医用接地方式,非接地配線方式及び非常電源に対する,安全基準及び施設方式について規定しています。次に,日本電機工業会資料「無停電電源装置(UPS)を医療機関へ適用する場合の技術指針(JEM-TR 233)」は,医療機関での停電などに起因する事故を未然に防止することを目的として,UPSを医療機関(病院など)に適用するときに関する規格,考慮すべき事項,機器の取扱いなどについて示しています。UPSを医療機関へ適用するには,これらの安全基準と技術指針を理解しておく必要があります。
「無停電電源装置(UPS)を医療機関へ適用する場合の技術指針(JEM-TR 233)」を概説します。
「病院電気設備の安全基準(JIS T 1022)」は,2018年に改正によって“瞬時特別非常電源”が“無停電非常用電源”に改められ,定義も見直されました。技術指針(JEM-TR 233)は,医療機関での停電などに起因する事故を未然に防止することを目的として,UPSを医療機関(病院など)に適用するときに関する規格,考慮すべき事項,機器の扱いなどについて示されたものです。
UPSは,コンピュータのバックアップ用電源を始めとして,あらゆる分野で適用されています。しかし,UPSの医療機関への使用については,安全を重視し,カタログ,取扱説明書などには,特別な考慮をすることなしに人命に直接かかわる医療機関へ用いることを禁止しており,用いる場合は,製造業者(メーカー)に相談するように記載しています。当社のカタログ,取扱説明書もこの指針に則って作成されています。
しかし,意味することは「医療機器などへの使用が禁止」ではありません。当社に相談いただきましたら,十分に製品説明と仕様打合せを行い製品選定させていただきます。
JIS T 1022によれば,
(1) 非常電源とは,商用電源が停止したとき,自動的に電力を供給するための電源の総称。(注記 消防法でいうところの”非常用電源”とは異なります)非常用電源は,”一般非常電源”,“特別非常電源”,“無停電非常電源”があり,定義は以下のとおりです。
補足説明:非常電源を構成する自家用発電設備には,一般社団法人日本内燃力発電設備協会が認定する10秒始動又は40秒始動のものがあります。
(2) 医用電気機器とは,装着部をもつか,患者との間でエネルギーを授受するか,患者にエネルギーを与えるか,又は患者からのエネルギーを検出する電気機械器具。
(3) 医用電気機器の分類,機器名称 分類は,生命維持装置,手術用機器,診断監視用機器,治療用機器,その他となっています。
補足説明:MRI,CTなど高度な医用電気機器はコンピュータシステムを搭載しており,一旦停電があると,システムを再度立ち上げるには長い時間を要すため無停電非常電源を要求している場合が多い。
震災,台風などの自然災害に対して,電力供給の確保が基本となります。そのためには,まず電力事業者の商用電源が長時間の停電でも,電力を発生できる発電設備が必要となり,更に特別非常電源用負荷及び無停電非常用負荷への電力の品質(電圧変動,瞬断など)が重要であり,負荷の重要性によって自家用発電設備及びUPSの適用を考慮することが必要です。
JIS T 1022では,”商用電源が停止したとき,無停電(交流電力の連続性が確実な電源)で電力供給を行わなければならない次の医用電気機器などの回路には,無停電非常電源を設ける”と規定し,“次の医用電気機器”として,“医療電気機器のうち,無停電(交流電力の連続性が確実な電源)で電力供給が必要なもの”及び“手術灯”を規定しており,UPSはこのような場合に自家用発電設備と組み合わせて適用される,とあります。さらに,無停電電源装置(UPS)の蓄電池は,充電を行うことなく,10分間以上継続して負荷に電力を供給できるものとする。自家用発電設備には,40秒又は10秒以下で電圧が確立する自家用発電設備を使用し,10時間以上連続運転可能なものとする,とあります。
(1) 単相2線出力タイプ 出力容量(0.35kVA~20kVA)
電圧(100V,200V),保持時間(最大180分間),蓄電池の種類は鉛蓄電池の他リチウムイオン蓄電池を選択可能です。
(2) 三相3線出力タイプ 出力容量(5kVA~300kVA)
電圧(200V,400V),保持時間(最大180分間)
(3) 単相出力タイプ,三相出力タイプともに,より高信頼度の並列冗長方式のUPSもあります。
(4) UPSと自家用発電設備を組み合わせたセット品 出力容量(3kVA~200kVA)
ワンストップで,お客さまの設備や装置に,最適な組合せを提案します。
●次のような装置に使用の場合には,運用,維持,管理に特別の配慮が必要となりますので当社にご相談ください。
監修:山洋電気株式会社 営業本部 シニアテクニカルアドバイザー 博士 泉谷 清髙
公開日: