「もしも」の停電や電源トラブルの際に,装置に電源を供給し,大きな損失を防いでくれるUPS。世の中にはとてもたくさんの種類のUPSがありますが,ご自身の目的に沿ったUPSを選ぶには,どうすればよいのでしょうか?
本記事では容量やバックアップ時間などの基本となる選定要素から,「こんな機能があったら便利」な+αの選定要素まで,まとめて解説していきます。
UPSを選ぶには,仕様の「基本」となる選定要素と,「+α」となる選定要素があります。
基本編
+α機能編
次項以降で,それぞれについて詳しく解説していきます。
最初に行うのは,UPSを設置することによって何を停電などの電源トラブルから守りたいのか,その目的を明確にするということです。その目的に沿って,UPSでバックアップする対象装置を決定します。
たとえば「データ」を電源トラブルによる「喪失」から守りたいのであれば,PCやサーバ,ネットワーク機器や検査装置などをバックアップする必要があります。一方,工場で生産された「製品」を電源トラブルによる「不良」などから守りたい場合には,生産設備や製造ラインなどをバックアップする必要があります。
守りたいもの(バックアップ対象装置)によって,UPSは大きさもお値段も全く変わってきますので,まずはその点について,明確にすることが必要です。
関連ページ:工場におすすめのUPS(無停電電源装置)は?用途別に必要性や費用対効果のイメージを解説!
次に決めるのは「容量」です。言い換えると「UPSからどのくらい電力が供給できるのか?」といったイメージになります。容量選定に必要な用語や単位,選び方を見ていきましょう。
UPSの容量を示すカタログ記載のスペックは「定格出力容量」です。定格出力容量とは,UPSから出力(供給)できる電力の容量のことで,カタログには「定格出力容量(皮相電力/有効電力):1kVA/0.8kW」のように記載されています。
ここで聞きなれないVA[ボルトアンペア]という単位について,ご説明します。VA[ボルトアンペア]とは,V[ボルト]とA[アンペア]を掛け合わせたもので,V[電圧]×A[電流]=VA[電力容量]という計算方法になります。k[キロ]は1,000を表します。
【例】1kVA(1000VA)のUPSは,電圧が100Vで,電流値が合計10Aまでの対象装置をバックアップできる
VA[皮相電力]とW[有効電力]の違いについては,ダウンロード資料「UPS選定の概要を理解しよう!」の中で解説しています。
次にバックアップ対象装置側の消費電力をカタログや仕様書から確認しましょう。
ここでイメージを掴んでいただくため,身の回りの装置の消費電力の例をいくつかご紹介します。実際の消費電力は,実際のバックアップ対象装置をご確認ください。
・PC … 0.35 kVA
・FAパソコン … 1 kVA
・サーバ … 2 kVA
・工場設備 … 20~300 kVA
・搬送ライン … 20 kVA
・製造ライン … 100 kVA
カタログや仕様書での消費電力の記載は,[VA]ではなく[W]も一緒に記載されている場合,また[VA]と[W]どちらか一方で記載されている場合もあります。どちらか一方しか記載されていない場合は,同じくカタログや仕様書に記載されている[力率]を使って,もう片方を算出します。
※1 力率の記載がない場合,力率を最大の1.0(100%)として計算します。
力率についての詳しい説明は,ダウンロード資料「UPS選定の概要を理解しよう!」の中で解説しています。
さてここまで,UPSの定格出力容量と,バックアップ対象装置の消費電力についてご説明しました。ではそれらを元に,例題からUPSの定格出力容量を選んでみましょう。
以下のような,一式 703[VA] /684[W]の情報ハードウェアを,UPSでバックアップしたいです。
これを満たす容量のUPSとは,2-1で解説したUPSの定格出力容量[kVA]/[kW]が,バックアップ対象装置の消費電力703[VA] /684[W]をそれぞれ上回る必要があります。
以上を加味して,当社UPS『E11B 1.0kVA モデル』を選定しました。UPSとバックアップ対象装置の容量を見比べてみましょう。
上記では,バックアップ対象装置の消費電力を,UPSの出力容量がカバーできていることがわかりました。
しかしUPSを選ぶ際は,バックアップ対象装置の消費電力ギリギリのUPSではなく,マージンを取ってある程度「余裕をもった容量」のUPSを選ぶ必要があります。そのため今回は,直近上位のサイズである『E11B 1.5kVA モデル』を最終的に選定しました。
これで,バックアップ対象装置の消費電力を,余裕を持ってカバーするUPSを選ぶことができました。
容量の次に決めるのは,「バックアップ時間(保持時間)」です。どのように選ぶべきなのか,見ていきましょう。
バックアップ時間とは,停電などの電源トラブルが起こった際,「UPSからどのくらいの時間,電力を供給できるか」の数値です。カタログには○分などの,分単位で記載されています。
必要なバックアップ時間は,「どのくらいの時間,電力を供給する必要があるのか?電力を供給している間に何を行いたいのか?」によって,大きく異なります。以下にてその一例をご紹介します。
【停電が起きた!】
バックアップ時間でUPSを選定する際,「負荷率」という数値への理解が必要になってきます。負荷率とは,UPSの容量に対しての負荷の容量の比率のことです。例えば定格容量が10kVAのUPSで,消費電力2kVAの装置をバックアップしようとします。そうすると,2[kVA]÷10[kVA]=20%が負荷率となります。
具体的な負荷率の計算の仕方を,先述2-3 の例でご説明します。今回必要なバックアップ時間は「8分」です。
先ほどと同様のハードウェア一式を,出力容量 1500VA / 1200W のUPS『E11B1.5kVA モデル』でバックアップするとします。UPS負荷率はそれぞれ「VAが1500VA > 703VA(47%)」,「Wが1200W > 684W(57%)」なので,条件の厳しいW 57%の方を採用します。これで負荷率は確定できました。
次にUPSのカタログに記載されている「負荷率-バックアップ時間グラフ」を参照します。今回の負荷率が57%のケースでは,バックアップ時間が「10分以上」であることがわかります。そのため,必要な「8分」のバックアップ時間が確保できていると判断することができます。
ここまで,「バックアップ対象装置」「容量」「バックアップ時間」という,UPSを選ぶ際のもっとも基本となる点について,解説してまいりました。
さてここからは,UPSの仕様を選定する際に必要になるスペックについて,ご紹介してまいります。いずれもUPSやバックアップ対象装置のカタログや仕様書で,しっかり確認しましょう。
入力電圧とは,「商用電源→UPS」に送られる電圧のことです。出力電圧とは「UPS→バックアップ対象装置」に送られる電圧のことです。入力と出力は基本的に同じ電圧になります。100V系と200V系に分かれ,国によって異なることが多く,日本では100V系が主流です。
UPSを使用する地域によって周波数は異なり,東日本では50Hz,西日本では60Hzとなります。また海外でも周波数は異なります。UPSを選ぶ際は,地域の周波数に適応したものになるよう気を付けましょう。
電気を送る方法として,「単相」と「三相」という二つの方法があります。大まかなイメージとしては,「単相は家庭用」のコンセントなどで,小容量のUPSに多いです。一方「三相は工場などの業務用」の電力に多く,中大容量のUPSは三相の場合が多いです。
仕様の選定が進んできたタイミングで,搬入や設置方法も確認しておく必要があります。設置場所は確保できるか,床の強度は大丈夫か,配線や搬入経路について問題がないかなど,いざ搬入の際にトラブルにならないために,事前に確認しておきましょう。
ここまでは,UPSの容量やバックアップ時間での選び方,仕様について解説してまいりましたが,ここからは「もっとこうしたい!」といった+αの機能での選び方について,ご紹介していきます。
最初は,給電方式についてです。UPSにはメーカーによって呼び方は異なりますが,いくつかの給電方式があります。当社山洋電気の場合の,それぞれの特徴についてご紹介いたします。
メリットとしては,①安価②比較的小型③省エネ性,という点があります。一方デメリットとして,停電が発生した際,電力を供給する際に「瞬断」が発生してしまうため,ある程度の電圧低下や波形の乱れは避けられない,という点があります。「価格や省エネ重視で,ある程度瞬断があってもOK」という場合におすすめの給電方式です。
メリットとしては①停電時に無瞬断で電源供給ができる②波形の乱れがない,という点があります。一方価格も比較的高価で,消費電力も多めです。「コストよりも無瞬断,給電の信頼性を重視する」という場合におすすめの給電方式です。
「常時商用給電方式」と「常時インバータ給電方式」のいいところ取りをしているのが「パラレルプロセッシング給電方式」です。停電時に無瞬断で電力供給を行い,波形も整えることができる一方,低消費電力化も実現しています。
UPSに搭載されるバッテリーには「鉛蓄電池」と「リチウムイオン電池」の2種類があります。従来は鉛蓄電池が一般的でしたが,最近ではリチウムイオン電池への置き換えが進んでいます。
UPSのバッテリー寿命は,従来の鉛蓄電池では「2~5年」ですが,リチウムイオン電池ですと「10年」※2という長寿命を実現しています。長寿命化によるメンテナンスコストの軽減だけでなく,UPSの小型軽量化や経年劣化による容量低下が少ないなど,さまざまなメリットがあります。
※2 使用環境や周囲温度によって異なる
詳細ページ:UPSのリチウムイオン電池と鉛蓄電池を徹底比較!
最後に,UPSのメンテナンス効率UPや工場のIoT化を進めたい方へのオプション機能,「LANインタフェースカード」についてご紹介いたします。
LANインタフェースカード(LANカード)をUPSに装着し,工場内のネットワークに接続することで,複数のUPSを一括で監視・制御できるようになりました。またModbus通信に対応したLANカードをする場合,工場ですでにPLCなどの「Modbus通信を用いたIoT機器」を導入している場合,UPSを簡単に周辺機器に接続し,一括で監視することができ,工場のIoT化・見える化に貢献できるようになりました。
関連ページ:UPS(無停電電源装置)を一括で監視する必要性が増している理由と,4つのメリットとは?
今回ご説明した内容と,より詳しい解説を,こちらの資料にまとめてございます。
是非ダウンロードしてお役だてください!
監修:山洋電気株式会社 営業本部 シニアテクニカルアドバイザー 博士 泉谷 清髙
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