他業種の工場と比べ,非常に広大な面積を必要とする化学・素材工場では,多くの精密な機器やシステムが絶えず稼働しています。これらを安定稼働させ,生産性と安全性を維持するためには,UPS(無停電電源装置)による電力の安定供給が非常に重要な役割を果たします。
この記事では,化学・素材工場における代表的なバックアップ対象として,計装システム,中央監視システムを取り上げ,それぞれに適したUPSや求められる性能・機能について詳しく解説します。
計装システムは,温度センサーや圧力センサーなどの情報を集め監視する装置です。これには,温度,圧力,流量などを測定器で測定し,データに基づいて危険を回避したり機器を自動的に制御する機能が含まれます。
化学・素材工場のような大規模な工場では,生産設備が短時間停止するだけでも,生産性ならびに安全性への甚大な影響が出るため,配管ごと,特定の距離(例えば50m)ごとなど,非常に多くの計装機器が設置されています。
停電などの電源トラブルによる計装システムの停止は,生産プロセスの不安定化や製品の品質低下はもちろんのこと,安全性に重大な影響を及ぼすリスクがあります。例えば,圧力管理センサーが正常に動かなくなってしまった場合,爆発事故が発生してしまい,人的物的損害だけでなく,有害物質を周囲に放出してしまうリスクも考えられます。
計装システムで常に安定した制御を行うために,UPSによるバックアップが不可欠です。
計装システムの種類と規模に応じて,適切なサイズのUPSを選択する必要がありますが,1kVA~3kVA,大きくても5kVAで十分な場合が多いです。
バックアップ時間は,非常用発電機と併用している場合は,発電機が起動する1分程度を補うために,5分程度。発電機を併用しない場合は,停電などの停電トラブルが復旧するまでの,数十分から数時間のバックアップが必要です。
計装システムをバックアップするUPSは,メンテンスのしやすさがとても重要です。広大な面積を有する化学・素材工場では,配管ごと,特定の距離(例えば50m)ごとなど,非常に多くの計測・制御機器が設置されています。そして,UPSの台数は大きい工場であれば数千台にのぼります。
各工場では,UPSのメンテナンス管理を表計算ソフトなどで行っている場合が多く,バッテリー交換等のメンテナンスには非常に多くの労力が必要になります。鉛蓄電池バッテリーUPSの場合,バッテリー寿命は2~5年と言われているのに対し,リチウムイオン電池は寿命が約10年※2です。10年というのはUPSの装置期待寿命と同等※2のため,一度もバッテリー交換をすることなく,UPS買い替え時期を迎えることができ,メンテナンスの手間を格段に減らすことができます。
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また計測・制御機器用のUPSでは,高い信頼性と無瞬断で電源供給を行う能力が求められます。
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※1 周囲温度が25℃の場合。
※2 SANUPS A11Kシリーズの場合。
計測・制御機器を含めた,工場内の様々な設備を束ねて監視・制御を行っている設備です。工場全体の設備を1つの監視室でモニタリングしています。
化学・素材工場は,事故が甚大な被害につながってしまうという性質から,絶え間ない監視・制御が必要です。停電などの電源トラブルで監視・制御ができなくならないよう,UPSの設置が重要になります。
中央監視システムの規模に応じて,適切なサイズのUPSを選択する必要がありますが,20kVA~50kVAの場合が多いです。
バックアップ時間は,非常用発電機と併用している場合は,発電機が起動する1分程度を補うために,5分程度。発電機を併用しない場合は,停電などの停電トラブルが復旧するまでの,数十分から数時間のバックアップが必要です。
中央監視システムは,停電時無瞬断で電力を供給することが重要です。例えば停電の際に電力の供給が止まってしまい,中央監視システムが止まってしまった場合,工場内の設備を監視できない時間が発生します。その間に事故が起こってしまった場合,甚大な被害つながってしまうリスクがあるため,常時インバータ給電方式・パラレルプロセッシング給電方式などの,無瞬断で電力供給ができるUPSの選定がおすすめです。
また並列冗長タイプのUPSでしたら,万が一UPSに故障が発生した際でも他のUPSから給電を続けることができ,安心です。
また,容量の大きなUPSはそれだけ電力の消費も多くなりますので,パラレルプロセッシング給電方式のUPSであれば変換効率がよく,省エネにも貢献します。
例えば以下のような100kVAのUPSで比較した場合,パラレルプロセッシング給電方式のUPSでは,10年間で300万円以上※3の電気代を節約することができます。また昨今では電気代の高騰だけでなく,2026年に始まる排出量取引も注目されていることから,省エネのUPSの必要性は今後ますます大きくなっていくかもしれません。
※3 1kWh=15円税込で計算(2023年4月時点 当社推定値)
特別高圧は契約により単価が異なるため,詳細は契約内容を確認してください。
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化学メーカーX社(従業員数1,000~5,000人)
化学メーカーのX社では,工場内の各行程における設備それぞれに計測・制御機器を設置しており,またそれらをUPSでバックアップすることにより,安全で安定的な生産活動を行っています。しかし,X社ではある悩みを抱えてました。
生産設,の管理・メンテナンスを担当するS氏は当時の悩みをこう話します。
「当工場では,数百台のUPSが稼働しています。自分はその管理・メンテナンスを担当しているのですが,実はこれを表計算ソフトで管理していて,非常に大変なのです。バッテリー交換のメンテナンスは,それぞれのUPSで2~5年置きに発生します。前回実施日を記入し,定期的なメンテンスを怠らないようにしているのですが,管理しているのはUPSだけではないので,毎日毎日やることが多くて…」
UPSの寿命が近づいて来たタイミングで,X氏は他機種への切り替えを検討しました。
「インターネットで情報収集をしていると,リチウムイオン電池UPSと鉛蓄電池UPSの違いの記事を見つけました。山洋電気でUPSを製造しているのは知っていましたが,興味本位で問い合わせをしてみた所,UPSバッテリーのメンテナンスの課題を解決できることが分かりました。」(S氏)
その後,リプレイスに向けた打合せを重ね,順次切り替えを実施しているX社。S氏はこう感想を話します。
「今導入しているUPSの期待寿命は10年で,バッテリー寿命も10年※4です。つまり理論上,UPSの寿命まで一度もバッテリーを交換しなくて良いということになります。これまで2~5年で一度バッテリー交換をしていたのに対し,非常に手間が軽減されました。本当によかったです。」
※4 周囲温度が25℃の場合。
監修:山洋電気株式会社 営業本部 シニアセールスエンジニア 西澤 敏幸
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